気付けば、あの柿の木の元だ。瓜子は倒れたままである。
アタシは悪くない。
咄嗟に、天邪鬼は手近にあった石を掴む。
そもそも、こいつさえいなければ良かったんだ。
こいつさえいなければ、訳の分からぬ苛立ちに苛まれることもなかった。自分が醜い存在だなんて改めて思い知らずに済んだ。あんな優しい老夫婦に「化物」と呼ばれることもなかったのだ。
天邪鬼はそのまま瓜子の後頭部めがけて、石を振り下ろそうとした。
その時、もう動かないと思っていた瓜子が身じろいだので、天邪鬼は体を竦ませる。瓜子は小さく呻きながら、重たそうな瞼をゆっくり持ち上げた。
「お前、生きているのか」
ぼんやり天邪鬼を見上げていた瓜子が、はっとしたように身を起こす。
「そうだ、私ってば、木から落ちたのよね」
すぐに動いたからだろう、「いてて」と瓜子は頭を押さえた。
「ごめんなさい。心配かけて」
申し訳なさそうに声に、天邪鬼は意味が分からず、まじまじと瓜子を見つめる。
「あんた、アタシが心配していると思っているのか?」
「だって、貴方、泣きそうな顔をしているんだもの」
瓜子が手を伸ばしてくる。天邪鬼は思わずその手を振り払った。
これ以上瓜子の傍にいたくなかった。山の中へ逃げようとしたが
「あ、待って! 帰っちゃうの?」
瓜子が慌てて天邪鬼を呼び止める。髪に挿していた簪を取って、天邪鬼に渡した。