家に戻った天邪鬼は、着物を綺麗に着直し、ぼさぼさの髪をなんとかまとめようと唾をつけて撫でつけた。
(そうだ、顔も洗おう。少しだけでも身綺麗にしていた方が何かと良い筈だ)
天邪鬼は水の張った瓶に近寄った。そのまま水を掬おうとして、動きが止まる。
水面には、天邪鬼自身の姿が映っている。
髪に手をやる。つややかな黒髪ではなく、こわごわとした赤毛の混じった毛髪だ。
頬に手をやる。すべすべとした紅い頬ではなく、ざらざらとした青白い頬だ。
瞳だってあの子のように大きくないし、口元だって不気味に歪んでいる。
天邪鬼は瓶の水を、思い切り、ぼちゃりと打った。しかし、醜い顔は揺らぐだけで消えやしない。
いっそのこと瓶ごと壊してしまおうと持ち上げた時、扉が開いた。
お爺さんとお婆さんが帰ってきたのだ。二人はぽかんと天邪鬼を見つめていた。
「お前、何をしている」
お爺さんの声は震えていた。
天邪鬼は咄嗟に言葉が出てこなかった。騙せるわけがなかった。
瓜子がいないことにすぐに気付いたのか、お婆さんが悲鳴に近い声をあげる。
「あの子は!? あんた、瓜子に何かしたの!」
違う。アタシは何もしていない。瓜子だってただ気を失っているだけだ。ほら、今から呼びに行くからさ。だから、落ち着いてくれよ。
天邪鬼はそう言いたかったが、どもった声が出て来るばかりで、言い訳めいた言葉すら言えずにいた。また、お爺さんが鍬を手にして迫ってくるもんだから、すっかり気が動転してしまい、天邪鬼は家から飛び出した。
振り返って、ぞっとする。血走った眼をした二人がこちらを捕まえようと走ってきている。すぐには追いつかないだろうか、それにしても必死な形相だ。
(あの二人は、あんなにも怖い顔をしていただろうか)
混乱ばかりが頭に満ちる。
「待て、この化物!」
追いかけてくる声に、天邪鬼はぐっと気持ちを堪えた。