天邪鬼は、瓜子が大嫌いだった。
そもそも、瓜から生まれたなんて、怪しさ抜群で人間かどうか分かったもんじゃない。しかし、瓜を拾ったお爺さん、お婆さんは、今まで子供が授からなかった為か、瓜から出てきた赤子を我が子のように育て始めた。
それを聞いた天邪鬼は面白くない感情を抱く。
あそこのお爺さん、お婆さんはとんでもないお人好しだ。
以前、天邪鬼は、この老夫婦に悪戯をしたことがある。だが、悪行がばれても、あの二人は怒らなかった。
それどころか、お爺さんは
「お前という奴は、本当にしょうがない奴だな」
と溜息をつきながも、天邪鬼を見る眼差しは怒っておらず、お婆さんも
「いつも独りで寂しいんだろう。ほら、これでも食っていけ」
とにこにこ笑みを浮かべて、おにぎりを掌に持たせた。
いつもなら、怒る村人を嘲り笑いながら逃げていたのに、そんなことを言われてしまった天邪鬼はつい調子が狂ってしまった。もごもごと「どうも……」と礼が口をついで出る。
「おや、天邪鬼にもお礼を言う心があるのか」
二人が珍しそうに、でも優しげに天邪鬼をまじまじと眺めていたもんだから、天邪鬼はかぁっと怒りにも似た恥ずかしさが込み上げた。心の奥がむずむずしてきて、いたたまれなくなり、逃げるようにその場を去った。
見返すつもりで、再度、悪戯を仕掛けようと老夫婦の家に来た天邪鬼だが、今度は悪戯する前に見つかってしまった。
「まぁた、つまらんことをしに来おったか」
とお爺さんはおどけたように言い、
「お腹でも空かせているのかい。なら、こっちに来て、団子でも食っていくか」
とお婆さんは朗らかな笑みで、出来立ての団子を差し出した。
老夫婦が自分に対して悪意を持っていないことが分かると、天邪鬼はまたしても心の奥がむず痒くなる感情を覚えた。
二人は呆れるほどのお人好しだった。
しかし、瓜子がやってきてからは、天邪鬼は何だか落ち着かない気分になる。