僕はしばらく、その寝顔を見続けながら硬直した。据え膳食わねばなんとやら、という言葉もある。ここで行動に移さなければ、僕は今後も何も変えられないのではないのだろうか。
ベッドを覗きこむように、体を屈ませる。真上から、彼女の顔を見下ろしている。もうそれだけで、なんだか心が幸せだ。キス、するのか。していいのか。いいわけがない。けれども、気持ちを止められない。鼓動が、全身を揺らしている。血が頭に昇っている。
ベッドに手をかけると、軋んで少し音がした。僕は一瞬、ひやりとしたが、茨城さんはまだ起きない。僕はもう止まらない。常識も倫理もかなぐり捨てて、ただ、純粋に、彼女にキスがしたかった。それでどんなことになっても、それを甘んじて受け入れよう。どんな責めも受け止めよう。僕は吸い寄せられるように、彼女に顔を近づけた――
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八王子くんの唇が、私の唇と触れ合った。うわ。ホントにやっちゃった。マジか。ウソでしょ。マジヤバイ。
どうしよう、いやでも、これって結局、いいことなのかな。両想いってことだよね。あ、そっか。八王子くんも、私のことが好きなんだ。ヤバイ、そう思ったらどんどん嬉しくなってきた。あれでもまって、もし八王子くんが本気じゃなくて、遊びっていうか、軽いノリみたいな感じでやってたら。どうしよう、それってすごく傷つくわ。あーどうしよう、わかんなくなってきた。
あ、ヤバ、目、合っちゃった。って、めっちゃ慌ててるんですけど。ウケる。すっごいうろたえてる。ちょっとかわいいかも。でもなんか言ってほしいな。言い訳とかさ。いや、お互い相手を待ってる感じだ。どうしよう、私が言ったほうがいいのかな。でも何を言えばいいのか。告白、脅迫、詰問、誘惑?
「……責任、取ってね?」
私は小首を傾げて、微かに微笑みを浮かべて言った。マジか。私、なんかすげーな。
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