小説

『狸寝入りのいばら姫』星見柳太(『眠れる森の美女』)

 そういえば昨日読んだマンガも、似たようなシチュエーションだったなぁ。ヒロインが眠っているところに、あこがれの人がキスをするっていう。ちょっとあこがれちゃうな、王子様からの目覚めのキス。百年の眠りから目覚める私、見つめ合う私と八王子くん――って、なに考えているんだ、自分。うわ、めっちゃ恥ずかしい。ありえないっつーの。
 キスといえば、ファーストキスはレモンの味なんていうけれど(古いのかな、これ)実際のところどうなんだろう。普通に考えて唾液の味だよね。息臭かったりしたら幻滅だよな、お互い。あれ、ちょっとまって、今日の私大丈夫?朝に歯みがいたけど、そのあとご飯食べたから、ちょっとやばかったりするのかな。いや、納豆は食べてないからセーフなはず。あーもう、ブレスケアしとくんだった。って、なんかキスする前提で考えてるし。ないから。ないない。妄想も大概にしろって、まじで。
ていうか、いい加減寝たふりも疲れてきた。ぶっちゃけしんどいわ。もう起きちゃおうかな。でも八王子くん、なんか深呼吸してんだけど。ちょっとウケる。なんだろう、緊張とかしてんのかな。え、でも、それってつまり、私に対してちょっと意識してるってことかな。実は脈あり?このまま寝てたら、目覚めのキスとかしてくれたりして。いやいや、だから、ありえないって。

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