よくわからなかったが、これは確かにオカルトであって医療では無い気がした。しかしながら、なんでもよい。この痛みから開放されてゆっくり眠れるというのなら私の夢が原始人の夢であろうと、それが遺伝子の暴走であろうと、実在しない幻の痛みであろうとなんだってよかった。ゆっくり眠れるなら其れに越したことはない。
「そうだ、先生。」
「はい?」
「じゃあ、首が痛くなって頭が燃えるように熱くなる方は何なのですか。」
「ああそれか。それも幻肢痛だね。首も尻尾も幻肢痛つながりで、どちらかが先でどちらかを誘発させたんだろうね。」
「ということは、尻尾と同じように遺伝子の暴走ですか?」
「いえ、それは遺伝子の記憶ではなくて、君の過去、君自身の記憶が引き起こしている痛みだ。」
「というと?」
「君はもう首から上は無いんだよ。」
「どういうことですか。」
「君は首から上が無いのに、あると思っているから痛むのだ。」
ああ、なるほど。私は私の頭のあるべき位置を触ってみようとしたが、その手はどこにも触れることなく空を切った。
「気づいたかな。これでもう、ゆっくり眠れるね。」
これが親爺の最後の言葉だった。診察代を払っていなかったことだけが気がかりだったが、よく考えれば最初から診察券すら渡していないのだ、親爺も許してくれるだろう。
それから私は今まで得られなかった深い安らかな眠りへ心ゆくまで没入していった。