小説

『御心ざしのほどは見ゆべし』安間けい(『竹取物語』)

 欄外にはインスタントカメラで撮った写真が毎日のように張り付けてあった。ページを戻ると、とてもとても小さな芙美を抱いた母と寄り添った父が自宅の一室で撮った写真が裏表紙についていた。ふたりはスウェットの上下を着ている。
「気の抜ける写真なんて思ってごめん。」
 もっと詳しく読めば、母乳が全く与えられていない理由やスウェットの母のウエストが今よりずっと華奢な理由が記されているかもしれないが、そこでノートは閉じた。ノートを戻そうと缶に目を落とすと、大きめの封筒があった。持ち上げると書類が入っているわけではないような偏った膨らみを感じる。斜めにすると中でカシャカシャと滑っている。
「まさか……」
 封筒の口を広げてそっと手を入れる。手触りでわかる。プラスチックの軽い感触だ。
「あった……。」
 鍵の形のペンダントだ。
 母は捨てていなかったのだ。封筒にはまだ感触があった。
 幼稚園で書いた母の日のカード。誕生日にあげた折り紙のメダル。いつのものか芙美さえわからない紫色の石ころ。
 5年間探していたものはここにあった。
 芙美の気持ちは届いていた。母の気持ちもやっと見つけることができた。
「ふふ……」
 笑っているのか泣いているのかわからない芙美の声。ペンダントを首にかけてみると、記憶の中のイメージよりもさらに子供っぽいものであった。
 夕方になって東京のお土産やら、父の不要になったものやらを乱雑に袋に詰めて抱えて母は帰ってきた。袋の中身を整理整頓するでもなく、お土産の焼き菓子の包装紙をバリバリと開けて芙美にお茶を入れさせた。父の様子を一通り報告された後、芙美も聞いた。
「ねえお母さん、私が生まれたとき大変だった?」
 母の動きが一瞬止まった。瞳が上の方へ動いて「あー」と思い出すしぐさをする。
「でもほら、母さん安産型だからスポーンだったわ!」
「なによそれ。」
 思わぬ答えにお茶を吹き出しそうになった。でも母らしいと思った。
 出産のことでなく育児のことを聞いたつもりだったが、まあいいと思った。
 そして芙美は御心ざしを試した田中くんのことを思い出した。明日学校に行ったら、田中くんを訪ねよう。もしペンダントを用意してしまっていたらもう見つかったことを伝えてしっかりと謝ろう。そしてできることなら田中くんのお母さんにプレゼントしてほしい。絶対に喜ぶはずだから。

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