小説

『The perfect king』田中りさこ(『裸の王様』)

 王様はもうなるようになれとの気持ちで、会議の行われる大広間にと歩いていった。広間の円卓には、先ほどの大臣を合わせ、十二人の大臣が座って、王様を待っていた。それぞれ、国の経済、教育など、国の大事な機関を任されている。
 健康大臣が満ち足りた様子で腰かけているのを見て、一人の大臣が聞いた。
「なにかいいことでもあったのか?」
 ほかの大臣たちも気になっていたので、静かに健康大臣の答えに耳を澄ませた。健康大臣は穏やかな口調で、「王様がお見えになれば、すべて分かるだろう」と言った。
 ちょうど大広間の大扉が開き、王様が入ってきた。大臣たちはすぐさま王様が何も身に着けていないことに気が付いたが、だれも口を開かず、先ほどの健康大臣の言葉の意味を考えていた。
 王様は玉座に腰かけると、「では、経済大臣より、順に報告を」と命じた。
 経済大臣は立ち上がると、「はっ、南の村では、日照りにより、作物の不作が続き、村の者たちが困窮しております。何らかの対策を早急に必要が…」とそこまで言った経済大臣は言葉を止め、思った。
 国民が苦しんでいるのに、私は豪華な着物を身にまとっているとは何事だ。王様は身をもって教えて下さったのだ。
 感動を覚えた経済大臣は声を震わせながら、「で、あるからして、私はじめ大臣らより寄付を募り、早急に支援を始めます」と話を結んだ。
王様は言おうと思っていたことを大臣に言われ、「ああ、そうするように」と言いながら、内心動揺していた。
「次、教育大臣」
 教育大臣が立ち上げると、「はい、最近学び舎で子ども同士のいさかいがひんぱんに起こっております。原因は親の職業の貴賤にあると思われ…」とまで言うと、教育大臣は王様と目があい、慌てて下を向いた。
 教育大臣は思った。私は教育を司るものでありながら、なんと凝り固まった考えをしていたことだろう。王様はあえて服を着ないことで、固定概念を崩し、多様な考え方を持つようにと教えて下さったのだ。職業に上も下もないではないか。
 教育大臣は堂々と胸を張り、「であるからして、子供たちに多様な考え方ができるよう、様々な職業の者を各地の学び舎に遣わせ、話をさせましょう」と言った。
 王様はまたも自分の考えていたことを言われ、面食らった様子で、「そう、まさにそうである。そのように」と言った。
 次の外交大臣も、その次の芸術大臣も、報告をした後で、自分で答えを見つけ出すものだから、王様は会議中「では、そのように」しか口にしなかった。
 会議が終わり、大広間から出てきた王様と大臣を偶然見た庭師は、首をかしげた。
 生き生きと目を輝かせている大臣とがっくりと肩を落とした王様。庭師は、裸の王様に釘付けになった。苦悩の表情を浮かべる王様を見て、庭師は思わずハサミを落とした。
「なんと、芸術的な」そう言ってから、庭師は整えたばかりの庭を見た。庭はきちんと手入れされ、整っている。
「だめだ、だめだ。今まで通りに満足などしてはいけない。進化しなければ」
 庭師は落としたハサミを拾うと、猛然と草木を刈り込み始めた。

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