小説

『The perfect king』田中りさこ(『裸の王様』)

 部屋に戻った王様は立っているのもやっとだった。大臣誰一人として自分が裸だと言ってこないばかりか、自分がいなくても次々と国の問題を解決してしまった。
 王様は「私は王失格だな」と言ってふっと笑った。
 その頃、大臣たちは興奮した様子で口々に王様を讃えていた。
「我らが王は、本当にすばらしい」「全くその通りだ」「身をもって我々を導こうとしてくださっているのだ」
 健康大臣は咳払いをし、大臣たちの注目を集めるとこう言った。
「私からの提案だ。国民にも、王の素晴らしさを伝えようじゃないか」
「おお、それはいい」と皆賛成した。

 王様の部屋の扉がノックされ、息を切らしたけ健康大臣が部屋に駆け込んでくるなり、こう言った。
「王様、本日これから城下町をパレードいたしましょう」
「今日…これからか?」
 王様が繰り返すと、健康大臣は大張り切りで、「ええ、何か問題でも?」と聞き返した。王様は、そうか、大臣たちでこの愚かな王を国民にさらし、玉座から退けようとしているのか、と合点がいき、神妙に「では、そうしよう」と返事をした。

 パレードの準備は早急になされ、昼過ぎには応急の門を出発することになった。準備が整ったパレード隊を見た王様は言葉を失った。大臣も、兵隊も、音楽隊も、皆なにも、身に着けていない。馬さえも、馬具や装飾がすっかり取り払われていた。
 王様は訳が分からず、もうどうにでもなれ、と思い、馬に乗った。音楽隊が賑やかな音楽を奏でながら、パレードは町へと向かった。
 音楽に魅かれ、町の人々が家から店から顔を出し、またたく間に王様一行のパレードは民衆に囲まれた。人々は、みんな裸というおかしなパレードに戸惑った。沈黙から、ざわめきが徐々に広がっていった。
 王様は馬の上から、戸惑う顔の人々を見て、もはやこれまでか、と思いつつも、今までにない解放感を味わっていた。
 その時、人ごみの中から、「裸! 王様は裸よー!」という声が聞こえてきた。王様が朝から待ち望んでいた言葉だった。声の主は、若い娘だった。その娘もまた裸であった。この娘は服を着るのが大嫌いで、それを恥じた父親から家に閉じ込められていたのだが、この騒ぎに家を抜け出てきたのだ。
「裸ー!裸の王様だわ―!」
 娘が裸のままパレードに加わると、浮き立った民衆も我先にと服を脱ぎだ。ズボン、スカート、シャツ、ブラウス、それに下着までもが宙を舞った。
「ばんざーい、裸ばんざーい」
 いつの間にか町はお祭り騒ぎになった。この騒ぎを聞きつけて、家から飛び出て来た者がいた。例の仕立屋だ。仕立屋は、自らの服も脱ぎ捨て、涙した。
「ああ、王様はなんと素晴らしい。しがない仕立屋の悩みを解決してくださるとは…」
 裸の娘は、仕立屋の娘であった。
 王様は裸の娘を抱き上げ、馬に乗せた。そして、城に連れ帰った娘を妃にした。二人は末永く幸せに、国は末永く平和であったという。
 めでたし、めでたし。

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