小説

『粗忽マンション24時』平大典(『粗忽長屋』)

 おっちょこちょいの二人組だ。ろくなことにはならない。
「そっかあ」熊五郎は肩を落とす。「俺はいよいよ……」
「よし!」八さんは手を叩く。「今から現場へ行って、お前さんを説得するのだ! お前さんからお前さんを説得すれば、あんな馬鹿な真似はやめるはずだ!」
 熊五郎は顔を上げる。
「あい、わかった」

 
 銀行の前は、ものすごい人の数だった。
 警察車両、救急車、マスコミ、野次馬、空にはヘリコプター。まるでお祭り騒ぎである。
「こりゃ一大事だね、ハチさん」
 熊五郎は、呑気なことを言う。
「さっさと行くぞ、熊」
 二人は、非常線を抜けズカズカと銀行へ向かう。
 それを見つけたのは、現場を取り仕切っている県警の担当刑事だ。
「おい、お前ら。なんだ? 一般人が入っては困るぞ!」
「はい、刑事さん」八さんは平然と答える。「熊五郎が強盗したと聞きまして、飛んできました」
「おお、強盗犯と知り合いなんですか? 息子とか親類とか……」
「はい、コイツです」八さんは、熊五郎を指差す。「こいつが強盗をしたって聞いていてもたってもいられず、本人を連れてきました!」
 熊五郎はしげしげと頭を下げる。
「はい?」刑事は顔をしかめる。「え、あの、状況が。この人の兄弟ですか?」
「いえ、コイツです」
 意味不明すぎる。刑事は泡を食ったように、青ざめる。
 こんな事態は、史上初だ。
 そもそも刑事だって、立てこもり事件なんか初めてでどうすりゃいいってときに、意味不明な二人が登場したのだ。一挙に脳がパンク寸前に追い込まれる。
「ちょっとあなたたち、待っていてください。……上のものに確認をしてくるので」
 刑事は、上司に相談しようとその場を離れた。

 
 この様子を見た二人。
「ヨシ、行っていいみたいだな」八さんは、熊五郎をせっつく。「早く行くぞ」
「俺は違う気がするけど」
 二人はそそくさと銀行へ入ってしまう。

 
「すいません!」 

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