最初に見たのは、朝から二日酔いで寝ている係長の犬山だ。
犬山は現在30代で、入社当時から営業成績もそこそこ上げていて、すぐに係長まで昇進した。しかし、異常なまでの酒好きがたたり、今ではすっかり仕事に対する本人のやる気はなくなっていた。
「毎日二日酔いで出社とは……待てよ。そうだ酒だ。こいつは酒のためなら何でもする」
次に見たのは、若い猿田。猿田は採用試験の成績が優秀だったため、入社当時は期待の新人と言われていた。しかし、女好きの性格が災いし、大事な取引先の女性にちょっかいを出してトラブルを起こしてしまった。それ以来、仕事のやる気もなくしてしまったようで、毎日定時に帰ってそのままキャバクラに行くのが日課になっている。
「この若さで毎日定時に帰ってキャバクラ通いとは……そうか、こいつはキャバクラだな」
最後に見たのは、女性社員の雉川。年齢は桃井より年上の50代。若いときは美人で仕事もできたという噂もあるが、目の前にいる雉川にその面影は全くない。今はとにかく、若くてイケメンのアイドルの追っかけに執着している。アイドルのコンサートのために有給休暇を使うなんてのはしょっちゅうだ。
「いい年して若いアイドルの追っかけとは……こいつはアイドルだな」
桃井が力強くうなずく。
「よし。この3人をうまく使って俺が出世してやるぞ。作戦名はずばり「きびだんご作戦」だ!」
終業時間になると、勤務時間中はろくに仕事もせずだらだらしていた3人が、ぱっと立ち上がり素早く帰り支度を始めた。
「犬山君、ちょっといいかな」
桃井が声をかけると、犬山が面倒そうな顔をして桃井を見る。
「今日いっしょに一杯どうだい?」
桃井が酒を飲む仕草をすると、
「は?」
犬山が露骨に嫌そうな顔をした。
「駅前にいい日本酒が置いてある店があるんだが、そこでどうだい?」
その言葉を聞くと、犬山の目の色が変わった。その店は日本全国の有名なお酒がそろっている飲み屋で、入手困難な貴重なお酒も置いてあると評判の店だった。
しかし、すぐに犬山の表情がもとに戻る。
「あそこは値段も高いし俺の給料じゃなあ……」
「もちろん、私のおごりだ。君の好きな酒を好きなだけ飲んでくれ」
桃井が言うと、犬山が目を輝かせる。
「課長のおごりですか? 行きます!」
桃井は「なんて現金な奴だ」と思ったが、気にせずそのまま犬山と飲みに行った。
犬山は「好きな酒を好きなだけ飲んでくれ」の言葉を実行して、遠慮など全くせず高い酒を次から次へと飲んで、満足した表情を浮かべている。
「犬山君、今度営業成績が上がったら、またここに飲みに行こう」
「本当ですか? がんばります!」