小説

『続・銀河鉄道の夜』藤野(宮沢賢治『銀河鉄道の夜』)

「あぁ、よかった。やっぱりジョバンニさんだったのね。わたし、お父さんとはぐれてしまって困っていたら、せいの高い男の子がわたしをこちらに手招きしてくれたの。どことなくあなたと似た雰囲気を持った男の子だったからついてきてしまったのです」
 ジョバンニはとても驚いてしまい少しも動くことができませんでした。お嬢さんをここに導いたのもジョバンニが追ってきたあの少年なのだろうかと思うと不思議な気持ちになりました。お嬢さんはジョバンニの方へ歩みながら、ふと天を指差して足をとめると
「まぁ、見てください」
と声を弾ませました。お嬢さんの声に導かれるままジョバンニがふりむくと、ピューという高い汽笛のような音が響いたと思ったら天空にサファイアとルビー、そしてとトパーズがはじけたようなそれは美しい花火が咲いたのです。風に乗って町の人々の笑い声や歌声が届いてきました。その中にはきっと、先生やジョバンニのお父さん、お母さん、お姉さんもいるのです。
 お嬢さんは美しい顔を輝かせながら空を仰ぎました。
「銀河はなんて綺麗なのかしら」
 その声を聞いていると、ジョバンニはなんだかあたたかい気持ちになりました。そのとき、さやさやとやわらかな風が吹き、一瞬銀色の光が辺り一面を照らしました。風の中でジョバンニは、「さようなら」という懐かしい声が聞こえた気がしました。そして最後にもう一度大きな風が吹き、お嬢さんの髪を大きくなびかせました。
 ジョバンニは風が走り去るのを見届けてから、鞄の蓋をしっかりと閉じて鍵をかけると、お嬢さんの方にむきなおりました。
「空に流れるあの白い光の正体をご存知ですか?」
「いいえ、教えていただけるのですか」
 満天の星空の下で、お嬢さんの笑顔はどんな宝玉よりも美しく輝いて見えました。ジョバンニはかつて遠い銀河の向こうで見たあの心おどるきらめきが今目の前にあるのだと感じました。
「この白い銀河はたくさんの小さな星が集まっていて・・・」
 彼女に話したいことが山ほどあるのだとジョバンニは気づき、遠い昔に彼とみたあの美しい写真の思い出から始めようと思いました。
 ふたりの頭上の銀河はそらいっぱいに輝き、天の河はジョバンニがかつてあったたくさんの人を優しく包むように柔らかに横たわっていました。

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