小説

『続・銀河鉄道の夜』藤野(宮沢賢治『銀河鉄道の夜』)

 「以上のように、天河石は石炭とは比べ物にならないくらいの動力を生み出すことができます。また、その性質上、とくべつな磁力をもつ場においては月長石と惹かれあうことが実験の結果から導き出されております」
 ジョバンニが最後の説明を終えると、講堂の中はどよどよとしたざわめきに満ち、前の方に座っている博士たちは展示された石をもっとよく見ようと身を乗り出し今にも椅子からころげおちそうでした。そこに置かれた月長石はこれまで誰も見たことがないくらい大きく美しく輝いていたのです。
 それから、4、5人の研究者たちが質問のために手をあげました。ジョバンニはそれらの問いに丁寧にこたえていき、最後の一人がこうたずねました。
 「先生、これらの動力を使ってどのようなことが可能になるとお考えですか?」
 ジョバンニはこの質問には、すこし考えこんでしまいました。なんだかたくさんのおもいがくるくるとジョバンニの頭と心の中をまわりだし言葉のはしっこをつかまえるのとても難しい気持ちがするのでした。
 「僕は」
 ジョバンニはドギマギしながらゆっくりと口を開きました。
 「僕は、空を飛ぶことが可能になると考えています」

 ジョバンニがたくさんの人とのあいさつや写真撮影から解放されて講堂を出た時はもうすっかりラピスラズリの夜空が頭上に浮かんでおりました。それはいつか見た星空にとてもよく似ているような気がしてなんだか泣いてしまいたい気分になりました。ジョバンニが空を眺めたまま立ちすくんでいると、
「ジョバンニ君、ご苦労だったね」と先生が講堂からゆっくりと歩いてきました。お嬢さんも一緒です。先生のお嬢さんは学者仲間のうちでもとても評判です。ときおりこうして講演を先生について聞きに来てくれるのです。
「ジョバンニさんのお話はとてもわかりやすくて私も夢中になって聞いてしまいましたわ」
 先生のお嬢さんは柔らかい声で本当に楽しそうにそうジョバンニに話しかけてきました。しかしジョバンニはあまりお嬢さんと話をしたことがないものだから真っ赤になって上手く返事をすることができませんでした。けれど、お嬢さんはそんなジョバンニのことをニコニコと優しく見守りながら、ジョバンニをうながすようにしてゆっくりと歩き出しました。
 その横を7、8人の少年たちが笑いながら駆け抜けていきます。めいめいの手に烏瓜のランタンを手にしています。
「あら、今夜は星祭なのですね」

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