小説

『五人の誰かさん』伊藤なむあひ(『三匹の子ブタ』『七匹の子ヤギ』)

ツギクルバナー

 部屋の真ん中にあるベッドでは五人がイカダの木みたいに並んで寝ていた。いつものように誰かさんが一番早く目を覚ます。そして静かに小屋を出て、村の外れの高い柵に囲まれた鶏たちのところに向かった。口角をあげ軽く挨拶したあと、隙間から手を伸ばし卵を五つ取り出すとそれを皆が待つ小屋に持ち帰る。僕たちはこれまでそれぞれの小屋で生活していた。けれど忌まわしいあの日から、ここに五人で暮らしているのだ。
 次に誰かさんが起きてきて、誰かさんが持ってきた卵に手を伸ばす。誰かさんは慣れた手つきで五つの卵を右手、左手、右手、左手、右手の順で割ってフライパンの上に落としていく。油のはじける音と白身の焼ける匂いで誰かさん、誰かさんが目を覚ます。
「おはよう」「おはよう」
 眠そうな誰かさんの「う」に「お」を重ねて誰かさんが呻く。せっかちな誰かさんはすぐにベッドから降り顔を洗い始めた。ほとんどつながってひとつになった目玉焼きを誰かさんが大皿に乗せてテーブルに置くと、誰かさんを除いた全員がその周りに立った。なにせ椅子が足りないのだ。
「おい、起きろ。飯だ」
 誰かさんが苛立たし気にベッドの方に声をかけるが当の誰かさんはいびきをかいて寝ている。仕方ない、といった様子で誰かさんがベッドに近づき誰かさんの両耳を引っ張ると、ようやく誰かさんが目を覚ました。
 誰かさんはもごもごと口を動かし、鼻をひくつかせたあとよろめきながらテーブルの前に立った。誰かさんが全員に聞こえるように舌打ちをする。皆が一斉に手を合わせ、そして目玉焼きを口にする。
 僕たちは、オオカミのことを考えながらもそれに対して何も言うことができず食事を進めた。五つの黄色い丸とそれを包んだ大きな白い丸はすぐに無くなった。空になった皿に向けて再び五人が手を合わせ僕たちはささやかな朝食を終える。
 誰かさんが窓とドアを開け箒で埃を外に掃いていく。誰かさんが水拭きをするその後ろを誰かさんが乾拭きしながらついていく。誰かさんは不器用な手つきで丸皿を洗うも水しぶきがあちこちに飛び散りまた誰かさんがそれに苛立っていた。誰かさんは皆の衣類を水で洗い、それを外へ干しながら何かを考えているようだった。
 それから僕たちはまたばらばらに行動した。誰かさんは畑に向かい、誰かさんは水を汲みに。誰かさんと誰かさんが川へ魚を釣りに行き、誰かさんは森に獣を狩りに行く。そうして僕たちは、むかしむかしからはじまる例の物語みたいに平穏な時間を過ごした。

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