小説

『ドッペルゲンガー』植木天洋(芥川龍之介『人を殺したかしら?』)

 すれ違いざま、下級生の女の子たちが私の顔を見て、一斉に騒ぎ立てた、というか、面白いオモチャでも見つけたような顔をした。みんなはあっという間に私を取り囲んで、口々に「似てるよねえ」「スゴ〜い」「そっくりぃ」と繰り返し言っている。渡り廊下のど真ん中で、知らない女子に囲まれて、みんなの間で何がやりとりされているのかわからなくて、私は腹立たしいのと、ちょっと怖いので思わず立ち止まる。
 やがてその一団のボスみたいな子が「うちのクラスにセンパイにそっくりな子がいるから、会ってよ」と言い出した。今まで以上にザワザワと女の子たちが騒いだ。いきなりそんなことを言われても、ぜんぜん意味がわからないよ。「そっくりな人がいるから」なんて言われても反応に困るし、そもそも会ったところでどうすればいいの?
 だいたい、そんな人いるわけないし。いつか読んだ本で「世の中にはそっくりな人間が三人いる」なんて書いてあったけど、世界の中では日本の人口って少ないよね? そのせまーい日本の中で、顔がそっくりで、しかも学校まで同じだなんて、そんな偶然はない。小学生だけど、たくさん本を読んでいるから、そういうことには詳しいの。
 でも私が返事をする間もなく、ボスは取り巻きの一人を走らせて、私に「そっくり」というその女の子を呼びにいかせた。私は逃げるタイミングを失って、その子がくるまで手持ちぶさたで、地面とか二宮金次郎のくすんだ銅像とかを見つめてじっと待っていた。待つ必要なんてないんだけど、なんとなく逆らえない雰囲気だったから、ただ立っているしかない。たとえ下級生相手でも、知らない女の子グループに囲まれたら誰だってこうなる。
 それから貴重な休み時間を浪費しながら待つことしばらく、ハァハァ言いながら取り巻きの女の子が戻ってきて、新しい女の子を連れていた。
 続いてやってきた女の子の顔を見て、胸がドキリと鳴った。
 相手も訳が変わらず連れてこられた、という風にキョトンとしていて、私の顔をみて「アッ」という形に口を開けた。
 私も声を出さないようにグッと唇を結んだ。
 悔しいけど、確かに彼女は「そっくり」だった。
 顔の造形が一ミリもずれてない、というわけじゃないけど、なんだか全体的な雰囲気をぎゅっと圧縮したようで、まるで歪んだ鏡を見せられてるみたいで変な感じ。真っ直ぐ見るのがなんとなく後ろめたいようなくらい。
 確かにそっくり。
 だけど、だからなに?
 キャアキャアと盛り上がる女の子たちの中で、私と彼女だけが冷静で、というかポカンとして、お互いの顔をチラチラと見ていた。

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