小説

『独白』夢野寧子(『眠れる森の美女』)

 二十歳の誕生日を迎えると、スリーピングガールはスリーピングビューティになる前に殺される。姫子は尊厳のある生き方を自ら選ぶこともできず、周囲の人間達によって殺されるのだ。
姫子はもうすぐ死ぬ。だから、せめて彼女がわたしの知っている美しい姫子のままで、少しでも怖がらず、苦しまずに逝けることを願う。
けれど、そう願うわたしの中に、美しさなど糞くらえだと吐き捨てるもう一人のわたしがいる。老いて惨めに生きるよりも、高潔に死ぬ方が望ましい? よぼよぼに老いて、皺くちゃになって、いつか骨と皮ばかりになったとしても、それでもこの眠りから目覚める未来が来ることを願うことは果たして罪なのだろうか。
 わたしは十五歳の誕生日を迎える前の日に眠りについた。それからずっと、姫子の隣のベッドで、わたしは戦い続けている。両親が、医者が、政府が、誰もが諦めたとしても、誰も望まなかったとしても、わたしは希望を捨てない。
茨姫の王子は、これまで姫に会おうとした多くの若者が命を落としたと聞いても、決して諦めなかった。わたしは眠り続けるだけの姫君じゃない。二十歳の誕生日があと十日後に迫っていようと、わたしは抗い続ける。最後の最後まで。

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