小説

『変人老科学者の計画』十六夜博士(『旅人とプラタナス』)

 学校では、友達と仲良しなさいと教えてもらっているよね。なのに、大人は隣の国と仲良くしてないんだ・・・大きな矛盾だと思うよ。でも仕方ないんだ・・・
 おジイさんは、そんな国の方針に反対しているんだ。国の批判をあちこちでしたり、デモを先導したりしているんだ。だから、国に目をつけられていたんだ。お前も知っているように、この前、我々の国の大統領が暗殺されただろ。もしかしたら、その容疑がおジイさんに係っているのかもしれない・・・小型の虫のように飛ぶ弾丸が大統領を暗殺したんじゃないかっていう報道もあるし・・・蟻ロボットが作れるおジイさんなら、ひょっとして・・・おジイさんは、物凄い研究者だったらしいからね・・・
 戦争に負けた国はどうなるのかだって?
 とても言いにくいけど、食料を奪われ、土地を奪われたら生きていけないよ・・・

 その夜、僕はベッドに入っても全く眠れなかった。僕は世界のことを何も知らずに日々呑気に過ごしていたのだ。でも、現実の世界はひどい状態だった。あんなに優しいおジイさんが、大統領を暗殺するようなことをするわけない・・・でも、おジイさんは、あんなに凄い蟻ロボットを作ることもできる・・・
 僕の頭の中はグジャグジャだった。12歳の僕にはちょっと重すぎる話だった。

☆☆☆

 おジイさんが警察に捕まって、1年が経つ。相変わらず僕は、おジイさんの家に来ていた。おジイさんの消息は依然不明で、主を失った家は何だか寂しそうに建ったままだった。でも、その寂しそうな家の周りの荒野には大きな変化が起こっていた。
 あの日、荒野にばら撒かれたままになった蟻ロボットはその後も活動を続けていた。蟻ロボットは、太った警官が言った、役に立たない土の山を作るロボットではなかったのだ。蟻ロボットたちは、土を使って、器用に土の木を作っていたのだ。高さ2mぐらいの小さなプラタナスの木のような構造物を作っていた。それを荒野に何本も何本も作っているのだ。なので、荒野には今、土で作られた木が無数に立っている。
 土の木には、美味しい果物もできないし、木材としての利用価値もない。土の山が土の木になったところで、あの太った警官が言ったように、何の役にも立ちそうもない。だが、違う。土の木は役に立つのだ。
 土の木に、いつしか鳥が休憩するようになり、鳥の糞が荒野に栄養を与える。そして、太陽の強い日差しから守られた土の木の木陰には、いつしか苔が生え、雑草が生えるようになる。すると、虫が住むようになり、虫を食べるための鳥や小動物がまた集まってくる。1年前、荒野だったこの土地が、今は緑に覆われ、鳥のさえずりがするまでになっていた。きっと、この先本当の木が生えて来て、この荒野は緑地になるだろう。

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