小説

『怪物』和織(『フランケンシュタイン』)

ツギクルバナー

「あなた、何て馬鹿なことをしたの」
 孝雄さんの友人だという彼女は、僕を見てそう言った。基本的に来客には孝雄さんの指示で僕が答えるが、そのとき彼は一階にある作業場で自らチャイムに答え、その人を出迎えた。だから彼女は、彼にとって重要な人物であると推測できた。その友人は孝雄さんの古くからの知り合いで、最近再婚をして、これから海外に移住することになっていると聞いた。だからその日、彼女は彼にお別れの挨拶をしに来たのだ。
「結構綺麗にしてるみたいだけど、彼女は・・・」
 ドアを開けて、二人がリビングへ入ってきた。彼女はお茶の準備をしていた僕に目を留めると、言葉を切った。
「こんにちは。僕はアンドロイドのトキヤといいます」
 彼女には僕がアンドロイドであることをあらかじめ伝えるようにと指示されていたので、僕はそう挨拶をした。すると彼女の表情は徐々に、恐怖を帯びた状態に見受けられるものに変わっていった。「怪物を見るような」と称されるような表情だった。
 後から考えてみて、そのとき孝雄さんは、故意に彼女に僕を見せたのだとわかった。でも、なぜそんなことをしたのか、彼女は僕がどうしてそんなに恐ろしかったのか、どちらも不明だ。ただ確かなのは、この不必要と考えられる記憶が、孝雄さんにとってキャッシュではないということ。僕は彼女が帰ってすぐに、この記憶をゴミ箱に入れた。それが孝雄さんにとって良いか悪いかといえば、悪い方に選別されたからだ。しかし彼は、他は消しても、その記憶だけを残したままにした。それを指摘すると、「その記憶は削除しない。このことについて質問はなしだ」と言った。そのせいで僕はあれから、この不明点である記憶を解く為に、毎日いろいろなことを検索している。
 僕を造った孝雄さんはアンドロイド技師で、自身で作ったアンドロイドを使って、引っ越し会社を個人経営してる。所有しているアンドロイドは計七体。僕と、仕事用の六体だ。仕事用に造られたアンドロイドは一体で五十キロのものまで運ぶことができる。引っ越し専用に設計してあるので、収縮や変形もする。だから梯子やロープは必要ない。病気もしないし、故障があっても大体は一日で修復可能だ。人間に対して保証する必要がない分、値段設定もリーズナブルだ。造ったアンドロイドを販売すれば大きな収入になる筈だが、そうするとメンテナンスを請け負わなければならなくなって、大勢の人間と関わらなければならなくなる。孝雄さんは、それが嫌なのだそうだ。
「他人に迷惑をかけず、自分を最後まで面倒みられればそれでいい」

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