「桃太郎さん、桃太郎さん」
「なんだい犬君」
「お腰につけたきびだんごをくださいな」
「この袋のことかい」
「はい、その中のきびだんごをください。美味しそうな匂いですね」
「匂いだけなんだ」
「はい?」
「きびだんごは全部食べてしまったんだ」
「……全部?」
「うん、だから犬君にあげる分はもうないんだ、すまないね」
「はあ…それは桃太郎さんも困りませんか」
「どうして」
「これから長い旅が始まるというのに、大事なだんごが残っていないのでしょう」
「うん、だって旅はしないんだ」
「え?」
「今はね、野垂れ死ぬための場所を探していたんだ。その前の、最後の食事としてきびだんごを食べたんだ。とても美味しかった。おばあさんの愛情を感じた」
「どうしてそんな」
「犬君は」
「はい?」
「もしもきびだんごが残っていて、あげると言ったら、何をしてくれる?」
「そりゃあ勿論鬼退治にお供しましょう」
「僕が鬼退治に行くのだとよく知っているね」
「噂になっていますよ。勇敢なお方が旅に出たと」
「そうじゃなくて、いつも君達は案内をしているのだろう?」
「桃太郎さん?」
「毎回君達が桃太郎の案内をしてくれるのだよね」
「桃太郎さん」