小説

『待ってる』柿沼雅美(『待つ』)

ツギクルバナー

 この小さい駅のホームでベンチに座っている。
 斜め後ろには古びた駅名の書かれた看板があって、後頭部のあたりには瑞々しい濃緑の厚い葉が背景を作っていて、改札も改札の外の商店街の薬局も踏切も見える。
 「おはよっ」
 未來がいつのまにか来ていて私の肩を叩いた。
 「あっ、おはよっ」
 奈子はハッと未來に顔を向けた。立ち上がると、膝に乗せていたカバンについたキャラクターのキーホルダーが音をたてた。
 「奈子待ってってくれたんだ」
 そう言う未來に、ん? と曖昧に答えた。
 「うそうそ、分かってるって。奈子いつも時間があるとあそこに座ってるんでしょ?」
 「なんで知ってるのー?」
 「有名有名、みんな言ってるって」
 奈子は改札の前で定期を探しながら、ふーん、と返した。
 「あ、全然イヤな意味じゃないよ! 奈子よくあそこにいるよねっていう話を聞いてるだけ、心配しないで」
 未來が改札を通って奈子に体を向ける。
 「大丈夫だって、そんなに深読みしてないって」
 奈子が笑うと、そっか、と未來が安心した顔で隣を歩きはじめた。
 「あ、また高見先生立ってるよー、なんなんだろ先生ってヒマなの?」
 商店街を抜けた横断歩道を渡ってすぐのコンビニの前に先生が立っていた。
 「ほんとだ、未來今日は大丈夫だね」
 「でしょ、先週注意されちゃったからさ、スカート丈。自分はジャージのくせに制服かわいくすることにケチつけないでって感じ」
 横断歩道は通学時間帯には看板が立てられて車が通らないようになっているので、赤信号を無視した。
 おはようございます、と先生に挨拶をすると、ちらっと未來のほうを見て、はい、おはようございます、と先生が言った。奈子は一度も目が合わなかった。
 「先輩めっちゃ捕まったんだろうな今日」

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