テナガアシナガを知っているか?
アシナガテナガでもいい。どちらでも同じことだ。
おい、無視をするな。黙っていると寝てしまうから、何か話せと言ったのはあんただろうが。
で、何だったか。ああそう、テナガアシナガだ。
知らないか?まあそうだろう。あまり有名ではないからな。
テナガアシナガは、二人で一体の妖怪だ。
今、笑ったな?妖怪なんて子供騙しの作り話だとでも言いたいんだろう。
まあそれでもいいさ。お話で大切なことは、それが本当かどうかじゃなく、面白いかどうかだ、そうだろう?
さて、テナガアシナガの話に戻るぞ。奴らの見た目は、大体人間と変わらない。だが、テナガは文字通り手が異常に長い。アシナガは、脚が長い。
どうしてそんな姿になっちまったのか、どうして二人でやっと一人前なのか。
今からそういうお話をしてやるから、ちゃんと聞いていろよ。ああ、寝ていない証拠に合いの手も入れろ。返事がなけりゃ、ひっぱたくからな。
昔、昔、あるところに、おつるという娘がいた。どれくらい昔かって?さあな、百年か、三百年か、五百年か。好きに想像すればいい。
おつるは大店の一人娘で、と言ってもあんたにゃぴんとこないか。まあつまり、今で言うところの一流企業の社長令嬢だ。両親が年取ってから出来た子どもだったから、それはもう甘やかされて育った。見目も美しかったから、使用人もこぞっておつるを可愛がった。それでおつるはすっかり我侭な、しかし愛らしい娘に成長した。
年頃になったおつるに言いよったのが、使用人の亀助という男だった。まだ二十かそこらの若者で、他の店から移ってきたばかりの小僧さ。それが大胆にも、主人のお嬢さんを口説いたわけだ。亀助は美男だったから、おつるはすぐに夢中になった。
しかしそれを知ったおつるの両親は激怒した。大事に大事に育ててきた一人娘が、素性の知れない馬の骨に誑かされたわけだからな。しかもおつるの婿になれば、店の主人の座を手に入れたも同然。おつるの父親は、亀助が店を目当てにおつるを騙しているのだと考えた。当の亀助がそこまで考えていたのかどうかはわからんね。単なる頭の軽い女好きだったのかもしれない。