小説

『白雪くん』大前粟生(『白雪姫』)

ツギクルバナー

 私たち七人がいつものように採掘作業からくたびれて家に帰ってくると、いつものように白雪くんが家で家事をして待っていてくれているはずだった。でも、その日はちがった。私たちが現場監督やセクハラじじいの悪口をいいながら家路についていると、前から白雪くんが歩いてきたのだ。
「あら、白雪くん、でかけるの?」と私たちのだれかがいった。だれでもいい。私たちは別に姉妹でもなんでもないけど、いつも七人ひと揃いで行動しているから、口から出てくる言葉も同じようなものだ。
「あ、いつもお世話になってます。ちょっと、祐希とみんなにさしいれをと思って」
 私たちはぎょっとした。その声は白雪くんの、高い、少年のような声とは似てもにつかない低すぎるおじさんの声だったからだ。
「あぁ、そっか。これじゃわからないよね。僕もまだ慣れてないんだ。はは。整形したんだよ」とその声の男はいった。
「あ」と私たちがいった。「もしかして、白雪くんのお父さん?」
「うん。どう? ほんとに祐希みたいでしょ」
「なーんだー。え? でもどうして? どうして自分の子どもそっくりな顔に整形したの?」
「いやぁ。僕ってエステにいったり美顔マッサージしたりするじゃない? その度にさ、鏡の前で聞くんだよ『鏡よ鏡よ鏡さん。この世で一番美しいのはだれですか』って。そう聞いたらさ、鏡のなかの僕はいつも決まって『おまえの義理の息子だ』っていうわけ。だったらもう、祐希そっくりに整形しちゃえばいいんじゃないかって」
「へー、でもすごーい。ほんとに白雪くんそっくり。黙ってればいいんじゃないですかぁ?」
「えへへ。あぁ、そうだ。さっき祐希にリンゴさしいれといたから、みんなで食べてね。すっごい高いんだよ。一個500円もするんだよ」
「すごーい」
 私たちはきゃっきゃうふふとよろこんだ。身長が高すぎるとはいえ、いや、高すぎるが故にだろうか、私たちは美容効果のありそうなものが大好きだ。
 それで、家に帰ると白雪くんが死んでいた。いや、まだ死んでいなかった。かすかに息があった。高級リンゴを喉に詰まらせたのだ。倒れ伏した白雪くんの頬はリンゴみたいに赤くなっていて、生きているときよりも美しく見えた。私たちはとりあえず美しい白雪くんを連写したあと、どうしようかと相談をはじめた。

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