小説

『白雪くん』大前粟生(『白雪姫』)

 一番くせっ毛のメグは白雪くんの話を聞いて泣いている。どこに泣く要素があったのだろう、と思わないことはないけど、メグが泣いているから私たちはみんな泣いてしまう。
 ひととおり泣き終えると赤毛のアンがいった。
「私たちの世話ができるかな。料理したり、寝床をなおしたり、洗濯したり、服のほつれをなおしたり、ドラマの録画をしたり、作業靴にファブリーズしたり、できるかな。それをしてくれるなら、ここにいていいよ。不自由な思いはさせない」
「できる」と白雪くんはいった。
 こうして、白雪くんは私たちと暮らしはじめた。
 私たちは朝早く現場にいく。別に生活するためにはウェイトレスだってスーパーのレジ打ちだってなんでもいいけど、私たち七人はみんな背が高くて力持ちだから工事の仕事が一番手っ取り早く稼げる。まぁ、女だからという理由でつらいことも多いけれど、逆にちやほやされることもけっこうあったりする。それで日が暮れる頃に家にもどってくる。白雪くんを拾ったときもちょうど日暮れ時で、でもみんな白雪くんにかまいっきりだったから、その日は学校にいけなかった。私たちも白雪くんも。
 でも、次の日にはちゃんと仕事を終えてから学校にいった。私たちは白雪くんと同じクラスのミカとサキがうらやましかった。ミカとサキ以外の五人も夜間だけど別のクラスだ。
 みんなで廊下を歩いていると「姫~」といって緑ちゃんが目を輝かせてぷりぷりと歩いてきた。緑ちゃんってけっこうこわいよね、と私たちは耳打ちする。緑ちゃんは右腕に鬼退治する桃太郎のタトゥーを入れているし、もう四十歳なのにヤマンバみたいなメイクをしている。もう四十歳だからなのかな?
 いうまでもなく、夜の授業はとてもねむたい。私たちは現場をこなしてきたあとだからなおさらだ。でも、カッと目を見開いた。今日は陽射しがきついなか資材を何十回も運んでやっと運び終えたと思ったら地下に潜って配管を掃除したりしてきつかったけど私たちは「家に帰ったら白雪くんが待ってる」って思ってがんばった。隣に座っている白雪くんがもう白井くんではなくて白雪くんで、それも私たちの家で暮らしている私たちの白雪くんなのだと思うと、なんていうか充たされる。
「用心してね」とサキがいった。というか白雪くんにLINEした。先生にばれないように。でも白雪くんは携帯をマナーモードにしていなかったから先生にばれた。緑ちゃんにもばれて、緑ちゃんはあわてて携帯の電源を切る白雪くんの写真を撮った。

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