小説

『待つ』野口武士(『浦島太郎』)

 イパオビーチの空がきれいな山吹色に染まっていく。
 空なのに「山吹色」っていうのはちょっと変な表現かな?とアコは思った。でもいいじゃない、綺麗なんだから。詩人を気取るにしてはあまりに私はいい加減だ、と自分で可笑しく思いながら、アコは美しい空の色彩に目を奪われていった。波の音と、服のまま海に入ってはしゃぐ地元の子供たちの声を聴いていると、自然と微笑みが浮かんでくる。
 首の後ろにかかる重みを思い出して、慌ててカメラを構える。バイトしてやっと買ったデジタル一眼レフカメラ。ここで使わずしていつ使おうか?
 まず、この夕焼けを一枚。そして、右手に見える恋人岬を一枚。そして、いい歳していまだにイチャイチャ肩を寄せ合って夕日を見ている両親を一枚。自然が奏でる音楽にシャッターのメカニカルな音が絶妙にマッチして心が浮き立った。
 アコは、今回の旅行を心から満喫していた。大学の勉強とアルバイトの両立を頑張ったご褒美には十分すぎるほどだ。あと二日、グアムでのんびりして、それから日本だ。おじいちゃんとおばあちゃんに久しぶりに会える。そう思うだけで、今すぐにでも日本行の飛行機に飛び乗りたくなったが、グッとその気持ちを堪える。
 慌てる事はない。十分楽しもう。そして、日本に帰ったら、ここで撮った写真を見せて、二人に私が見てきた色んな事を話すんだ。話したい事が何年分もたまっている。その量ときたら、今回私が持ってきたスーツケースに収まらないほど多いのだ。
 それにしても……、とアコは思う。どうしてあの歳の人達って、精密機械やテクノロジーにああも苦手意識をもっているのだろう?潜在的な恐れといってもいいかもしれない。パソコンとインターネット環境さえあれば、いつでも顔を見ながらお喋りが出来るのに。
 この間だって隣の忍君(幼馴染で遠距離恋愛中だ)が無理やり自分の部屋におじいちゃんとおばあちゃんを引っ張ってきてくれて、やっと顔が見れたんだから。それなのにおじいちゃんは特にそっけない。可愛い孫の顔がみたくないのかしら。
 だから、祖父母との連絡はいつも手紙頼りになる。便箋に手紙を書いて、送る。そして返事を待つもどかしい日々。一日千秋とはよく言ったものだ。

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