小説

『図書館員、人類を救う』平井玉(『天の羽衣』)

 就職戦線において、超氷河期は終わったと人は言う。世間では、労働力不足で牛丼屋が深夜営業をやめたと騒いでいる。別の世界の話なのか、さほど悪くない大学に行き、法事で久々に会う親戚のおばちゃんには「あら、いい青年に育ったわね~」と言われるヒロヨシは、全くどの会社にも引っかからなかった。母曰く、押しの弱さと話下手のせいだそうだ。留年する才覚すらなく、うかうかと卒業してしまった。仕方が無いので、不動産鑑定士を目指し専門学校に通いながらアルバイトをすることにした。バイトの面接も落ち続け、もう生きているのが嫌かも、と思ったとき、東京に住んでいる親戚が市立図書館の仕事を世話してくれた。市民の妻が夫の扶養範囲内でできる設定の仕事だが、夜専門学校に通うのに丁度いい。ヒロヨシの職場は一応市内最大の中央図書館なのだが、市自体が小さいので23区内のその辺の図書館と大差ない。一緒に働くのはやはり主婦のみなさんで、素直な若い男としてかわいがってもらえた。コミュニケーションという、21世紀に最も求められるスキルが低いヒロヨシも、おかげでのびのびと働くことができた。
 その少女が入ってきたとき、ヒロヨシは返却本を書棚に戻す仕事をしていた。接客より書棚の整理の方が好きだったが、今ばかりはカウンターにいたいと思った。書棚の隙間越しに見てもあきらかにわかる美少女だったのだ。少女は軽やかな足取りで迷わずカウンターに向かい、ベテランの相田さんに何事か尋ねていた。相田さんがチンベルを鳴らしたとき、ヒロヨシは最速の早歩きでカウンターに戻った。
「この、夏目が対応いたします。何しろ文豪と同じ名前ですからね」
 相田さんが真面目なのか冗談なのかわからない調子で少女に言った。少女はヒロヨシに向き直った。透けるほど色白で、握ったら折れそうなほど華奢ですんなりと伸びた手足をしていた。黒々と濡れた瞳が、やや不審そうにヒロヨシをながめ、首をかしげた拍子にツインテールがくるんと細い首に絡みついた。二次元の神だ。否、マニアが夢見るアニメキャラが三次元化して現れたのだ。
 

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