小説

『罪深い娘と罪のない息子』山北貴子(『竹取物語』)

 ある所に竹取の翁という者がいた。
その日も翁はいつものように山へ入り竹を取っていた。
すると、一際太く青々とした竹が目に入った。
翁がその竹に近づくと、竹の根元に玉のように美しい赤子が肌着一枚で寝かされていた。
「これは大変だ、こんな所に赤ん坊が…」
翁は上着で赤子を包むと嫗の待つ家へと帰って行った。

「おじいさん、その赤ん坊は一体どうしたんですか?」
嫗は驚きつつも、赤子の寝床を用意し、お湯を沸かした。
その間に翁は山であった事を嫗に説明した。
「おばあさん、わしらには子供がおらん。この子をわしらの手で育てないか?」
翁の申し出に、子供が欲しかった嫗は二つ返事をした。
「でも…」
嫗は言葉を詰まらせる。
翁にはその理由がわかっていた。
嫗の家系は男児が決まって若くして亡くなっていた。
嫗の2人の兄、妹の息子、はたまた養子で得た男児すらも15歳を待たずに亡くなっていた。
翁の連れてきた赤子は男の子だった。
「ならばこの子は15歳になるまで女の子として育てればいい」
翁は言った。
「この子はきっと丈夫に育つ」
2人は篭の中ですやすやの眠る子を祈るような気持ちで眺めた。
 

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