小説

『ガラス製品なので大変割れ易くなっております』五十嵐涼(『シンデレラ』)

ツギクルバナー

ちくしょう、私の足は血まみれだ。
「あのババア、とんだ不良品を掴ませやがって!!」
足元には、血に染まり林檎飴の如く鮮やかな紅色をしたガラスの破片が散らばっていた。
「これは酷い!いくらなんでも酷過ぎる!!こんな簡単に割れるガラスの靴なんてあるかい!!」
私は大き過ぎる独り言を喚き散らかし、すぐ後方のこぢんまりとした雑居ビルへと大剣幕で引き返して行った。
ここは表参道の一本路地裏に入った所なので人通りはかなり少ない。だが、それでもポツリポツリと通行人はおり、制服姿に素足で血だらけの女子高生、つまり私を、行き交う人々がギョッとした顔つきで見ていた。
「そりゃそうだろ、私だってこんなヤツいたら二度見するわ!」
小さな破片がまだあちこちに刺さっている所為で一歩踏み出しだけで激痛が走る。それでも、私はあの女に一言わなければ気が済まなかった。
(よくも、よくも、恋する乙女の心を踏みにじりやがって!!!)

ビルの2階には3件ほどお店が入っているのだが、一番奥のドアだけやたら異色を放っていた。ハート形の葉っぱを生やした蔓植物がドア一面に張り巡らされており、所々にまるでクリスマスツリーのオーナメントの様にランプやらドクロやら鏡やらがぶら下がっていた。蔓で隠れてしまっているがよく見ると看板が掛かっており『魔女の部屋』と書いてある。
私はドアノブを握り閉めると大きく息を吸い込み、ドアを破壊する勢いで押し開けた。
「てめぇーー!!!金返せ!!!」
部屋の中央にあるやたら高級そうな木製の机に頬杖をつき、紅茶を楽しんでいる女性を私は毒蛇にでもなった勢いで叫びながら睨みつけてやった。部屋の中は狭く、シンプルなもので机が一つと壁に埋め込み式の大きな鏡があるくらいだ。
因に、冒頭で思わずババアと言ってしまったが彼女は世間一般ではお姉さんと呼ぶべきだろう。いや、綺麗なお姉さんと言うべきか。見た目は多分20代前半くらい。レースとビジューが施された黒いフード付きワンピースを着ており、やたらヒラヒラキラキラしていた。そして、黒がよく生える程の真っ白い艶のある肌と、小さな真っ赤な唇。黒めがちな垂れ目に長い睫毛。髪がベビーピンクな所を覗けば、その整った容姿は魔女というよりフランス人形の方が近いだろうか。
「なんじゃ、もう願いが叶ったのか?礼ならいらんぞ、金を前払いで貰っておるからの」
人が血管が切れる勢いで殴り込みに来たというのに、わざとらしく彼女はそう言うとフォフォと笑ってみせた。その見た目と
喋り方のギャップは人をイラつかせるものがある。是非とも普通に喋ってくれ。
「頭湧いてんじゃね?あんた!血まみれでどうやって願いが叶うんだよ!?」
一つ言わせて欲しいが私は普段、言葉使いは割とまともな方だ。こんな汚い言葉を巻き散らかしてしまう程、激昂しているのだという事を分かって欲しい。
「あんたもしかしてすぐにあの靴を履いたのかい?」
やれやれといった感じでカップをソーサーに置くと、私の足元をちらりと見てきた。
「すぐに履いたわよ。このお店を出てすぐにね!」
どんだけ願いを叶えるのに必死なんだよ、と心の中でこっそり私は自分にツッコミを入れてみた。

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