『泥田坊』
化野生姜
(『泥田坊』『鶴巻田』『継子と鳥』)
祟りが語り継がれる田んぼの地形調査に訪れた私が目にしたのは、調査用ソナーを泥の中に引き込んでいく三本の指。泥にまみれた三本のかぎ爪のような指だった。その日の深夜、私はざわつくような気配に目を覚ました。
『The Wolf Who Cried 2020』
田仲とも
(『狼少年』)
「ウゥーウウ、ウゥー。」狼の遠吠え。同時に規則正しく避難はじめる人形の群れ。すっかり見慣れた日常の光景。WOLF-災害警報システム、通称『狼』は、ある特定の自然災害を検知し、早期に警告を発する仕組みだ。
『背伸び、しない!』
原豊子
(『狐と葡萄』)
紺野芹香、大学四年生。就職活動真っ最中。第一志望は出版業界。これまで自分の手の届く範囲でまずまずの満足を得てきた人生で、今初めてはるか高い所にたわわと実った果実をぎりぎりと見つめていた。
『役所のおうさま』
原豊子
(『裸の王様』)
「俺がこうやって来てるんだぞ! なんだその態度は!」怒号とともにテーブルをたたく音が、区役所に鳴り響いた。集まる視線、職員の怯えきった顔―菅内康夫、五十五歳。ライフワークは区役所の公務員を鍛え直すことだ。
『汐穂の王子さま』
晴香葉子
(『星の王子さま』)
大学3年生の汐穂は、どこにでもいる普通の女子大生。全くモテないわけではないが、彼氏ができないある理由を抱えていた。今回もまたうまくいかず、飲み過ぎた翌日、目覚めるとそこにいたのは、変わった服装をした青年だった。汐穂は、その青年と1週間を過ごすことになり……。
『三つ巴』
秋山こまき
(『こころ』夏目漱石)
ドアを開けると秋子さんが立っていた。彼女は、僕の高校時代からの親友の恋人だ。彼女と部屋で二人切りになるなんて僕にはできない。ましてや夜だ。でも、もういいのだ。垣根は消えたのも同然だ。切り札は僕が握っている。
『私の桃源郷』
秋山こまき
(『アラジンと魔法のランプ』)
皆、願い事をする時だけ無理して笑顔をつくる。普段、私は家族に邪魔者扱いされ、無視されているのに。これほど辛いことはなく、怒りが込み上げてきた。「いい加減にしろっ!」私はついにキレ、家を飛び出した。
『お留守番』
大場鳩太郎
(『オオカミと七匹の子ヤギ』)
優しい母親と二人で暮らす「ぼく」の唯一苦手なことは留守番だ。ある日、しゃがれた声で『お母さん』だと名乗る男が家を訪ねてきた。その日はあっさり追い払えたが、翌日の同じ時刻に、再びチャイムが鳴った…