『檸檬爆発』
和織
(『檸檬』)
これで橋を爆破できないか? 取り残された彼らは、無数に転がっている檸檬を手に取り、それを投げた。彼らは、あいつがかつて持っていたもの。そして、要らなくなってしまったもの。
『ヴィーナス』
橋本和泉
(『天女伝説・羽衣伝説』)
かつてそこには、天女を妻にした男が住んでいた。数千年を生きることができる、それはそれは美しい天女にとって、その男の一生は、まるで吹いて消えてしまうマッチの火のようなものだった。その人生の中で、男は天女を愛し、天女も男を愛し続けた。
『ビヨンの妻』
霧赤忍
(『ヴィヨンの妻』)
夫が小説家になると宣言し関東から九州へ引越しをすることに。ある日、夫がどうしても気になることがあると妻に相談した内容は「はたして小説は現実に起こりうるのか」だった。確かめるために名前や家族構成が酷似している「ヴィヨンの妻」を再現することに。妻も必死で協力するが……
『UBASUTE』
あきのななぐさ
(『うばすてやま』)
山間の小さな村に残る風習。うばすて。村の掟により、一度は決心した息子。道すがら、帰り道に迷わぬようにと思った母の想いが、かえって息子を迷わせてしまったことを知る。村の掟は絶対。このまま帰ると、優しい息子に待つのは苦渋の決断。そう考えた母親は、自らを捨てる決断をする。
『王子がステキと限らない』
檀上翔
(『シンデレラ』)
シンデレラは皇太子と結婚したくない。皇太子が愚鈍と有名だからだ。結婚を避けるべく画策するが、皇太子の弟の第二王子からシンデレラが皇太子と画策して国家転覆をしようとしているとの疑いをかけられる。大臣たちの活躍により疑いは晴らされ、一件落着。
『脇差し半兵衛』
中杉誠志
(『たがや』)
花火大会の夜。両国橋の上で、どこかの殿様が、通りすがりのたが屋にいちゃもんつけて無礼討ちにしようとしてやがる。幸い、おれの手元には新調したての脇差しがある。人を斬るのに太刀はいらない。脇差しでも十分、骨まで断ち切れる。さあて、そいじゃあ、試し斬りといこうか。
『卑怯者メロス』
中杉誠志
(『走れメロス』)
メロスはあきらめた。日暮れまでにシラクスの町に戻るのは到底無理だ。そしてメロスはまぶたを閉じた。起きるとすでに夜だった。その瞬間から、走るのをやめた卑怯者メロスの、転落人生が始まった・・・
『異虫恋愛譚』
中杉誠志
(『アリとキリギリス』)
働きアリの私が仕事に疲れて家に帰ると、キリギリスがギターを弾いている。彼は私のヒモ。合コンで出会って、意気投合したあげく、そのまま居ついてしまった。笑顔で夕食を準備してくれる彼に、私は問う。「ねえ、キリちゃん。私が『出てけ』っていったら、どうする?」・・・