『カグヤちゃん』
木江恭
(『かぐや姫』)
白骨死体が発見された田舎の村に現れた女、約二十年前に姿を消した美少女カグヤちゃん、人々の曖昧な記憶。「覚えててくれたの」「ありがとう」。カグヤちゃんはどうして消えてしまったのだろう。何処に行ってしまったのだろう。そして彼女は、何のために戻って来たのだろう。
『母岩戸』
室市雅則
(『天岩戸』日本神話)
三十歳の引きこもり男。ついに一線を越え、ペットボトルで「小」を済ませた。
理解者の母もあきれ果て、食事がなくなった。空腹に耐えきれず部屋を出ると、家族が男の存在を忘れて笑い合っていた。悲しくも怒って暴れると母がトイレに引きこもってしまった。母を外に出す為に、初めて家族が団結する。
『BUGS CAPITALISM』
澤ノブワレ
(『変身』フランツ・カフカ)
労働基準法の大幅緩和が強行された日本。ブラック企業での激務に疲れ切った暮来(くれき)は、ある朝目を覚ますとカナブンになっていた。自由を謳歌する暮来だったが、日に日に虫へと変身する者が増え始める。ついに世間では巨大な虫たちを駆逐する動きが現れ始め……
『sleeping movie』
日吉仔郎
(『眠れる森の美女』)
小学四年生の尚子の両親は離婚している。尚子はある日の夜に母親から、もう半年近くのあいだ会っていない父親と会うよう告げられる。それは離婚時の取り決めらしい。尚子は積極的に会いたくもなかったのだが、取り決め通り、父親と半日出掛けることに。そして父親は尚子を映画館に連れて行くのだった。
『魔法のマッチ』
長月竜胆
(『マッチ売りの少女』)
貧しいマッチ売りの少女アンヌは、売り物の中に魔法のマッチを見つける。それは、その火の中に、覗く者の願望を映し出すという不思議なマッチだった。アンヌはそれを見世物にして大金を稼ぐことに成功する。しかし、人々の願望に触れる内、いつしか虚しさを覚え始め……。
『エナイ』
和織
(『ルンペルシュチルツヒェン』)
殺し屋の彼は発情期の猫に眠りを妨げられ困っていた。ある日彼は、自分の手で猫を殺すしかないという考えに至った。しかし実行に移そうとしていたそのとき、ある少年と目が合った。好奇心に満ちたその瞳を見て、殺し屋は少年を猫に触らせてやった。そのうちに、ちょっとした悪戯を思いつく。
『かなしみ』
末永政和
(『デンデンムシノ カナシミ』新美南吉)
少年はある日、背中のランドセルにかなしみが詰まっていることに気がつきました。誰にも相談できず、ひとりぼっちで家に帰った少年は、お母さんが背負ったもうひとつのかなしみを知るのでした。
『そして、黄金の午後へ』
山本紗也
(『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』)
キャロル教授の話のあとチャシャに声をかけられた僕は、侯爵婦人に促された事もあって、少しばかり寄り道をする事になった。そして・・・。
『ブリコラージュ』
柿沼雅美
(『流行歌曲について』萩原朔太郎)
―たとえばこのまま慶一郎の部屋にいることにしたら幸せなんだろうか。 15年ぶりの同窓会で、パンクな音楽を豪語する飯田慶一郎に会った。38歳独身の益田敬子は翌日、慶一郎の部屋で目を覚ました。