古代より大和と河内の国境であったK村のとある旧家に生を享けた“私”。今、鮮明によみがえる幼い日の記憶。夜の闇に遠のく白装束の両親の背中。「弁天さん」と呼ばれる村の鎮守である塚穴。歴史は受け継がれていく…
写真の宇佐美専務と亀山専務は、いつもと変わらぬ明るい顔で笑っていた。二人は「短慮の宇佐美」、「愚鈍の亀山」と揶揄された会社の二枚看板。同郷の後輩である自分をいつも気にかけてくれていた。思い出が溢れ出す。
山の中にある不思議な豪邸マヨイガ。マヨイガを見つけたら、その家の物を何でも一つ持ち帰っていい。それは、持ち主に幸運をもたらすという。一緒に釣りに行った会社の後輩が見つけたマヨイガに欲望を支配された遠山は…
海の中のとある宮殿に、大きな海亀がやってきました。竜宮城の乙姫様にお仕えする亀が、100年に一度の報告をするために参ったのです。亀は海神様に拝見し、これまでのように乙姫様の行いを詳らかに語りだしました。
旧友の借金のため軟禁される阿戸嵐助。友人は、明日までに300万円準備すると家を飛び出した。借金取りは『走れメロス』と同じ状況だ、と楽しそうだ。太宰治の名作のエンディングがどうなったのか、その場にいる誰も思い出せない。
大学一年生の夏休みから“僕”の周りに現れるようになった白い手袋の男。「あと半年」、「あと五ヶ月」。神出鬼没のその男は、意味のわからない不気味な言葉を僕に投げかける。そして、間も無くその当日…
大手文房具メーカーの営業として忙しい毎日を送っている美咲。彼女には悩みがある。片頬に生まれつきある小さなこぶだ。ある日、たまたま雨宿りに入った『ランプ屋』でマスターにその悩みを打ち明けると、その翌日…
冬、餓えたキリギリスは、アリたちの家を回りました。冷たくあしらわれるキリギリス。そんな時、少しだけ食べ物を恵んでくれる優しいアリが現れます。キリギリスは、そのアリにある交換条件を持ちかけました。
大学のレポートの課題「あなたの故郷の特徴を一つ取り上げ、それを紹介しなさい」。しかし、“私”は親の仕事で転校を繰り返してきたため、そう思えるような場所はない。とりあえず図書館に向かった“私”を待っていたのは…