『たぬきと小判』
山波崇
(『ぶんぶく茶釜』)
日が昇ると、山の中を行ったり来たりするすこし黒ずんだ毛艶の老たぬき。鼻先を落ち葉のなかへ突っ込んだり、宙返りをしたり、熊笹の小枝で自分の姿を隠すようなしぐさを続ける。五郎じいさんは首をひねった。
『華麗なる人生』
越智やする
(『王様と乞食』)
「君、私の息子になる気はないかね?」突然の話に俺は目を丸くした。しかし目の前にいる旦那の目は真剣そのものだ。旦那の息子 治夫が、親の七光りを体現したような馬鹿息子であることは有名である。「今日からお前が治夫だ」
『竹取られ前夜』
左竹未來
(『竹取物語』)
地球行き前夜。「ちきゅうのお話をして。おぼろが知っている、ちきゅうのお話を聞きたいわ。」朧は、姫がこれまで不安を押し隠していたことを初めて知った。「地球には、とっても珍しいものがあるそうですよ。」彼女は語り始める。
『鬼の誇りの角隠し』
メガロマニア
(『桃太郎』)
暗闇に包まれた浜辺に打ち上げられた一隻の小船。今、鬼を見たと言っても信じる者などいないだろう。そのくらいに桃太郎の鬼退治は有名な話で、悪さをする鬼は桃太郎に全て退治されてしまったのだから。そう僕を除いては。
『ぼくと、4つのせかい』
田中和次朗
(ネイティブアメリカン民話『ホピ族の予言』)
おばあちゃんから聞いた、とても大切な物語がある。たったひとつのその物語はすべて、ぼくの記憶に記録されている。不思議で、可笑しい。でもほんとうだと思わせる、でもほんとうかもしれない物語。
『救われた人魚姫』
あべれいか
(『人魚姫』)
「もうサイテー!」未央には結城君という彼氏がいて、付き合って今日でちょうど2か月。そんな記念日のデート中、ふと彼女が、自分を好きになったきっかけを聞いたことが、今回の騒動の発端だ。人違いだったという。
『プラネタリウムの空』
中野由貴
(『シンデレラ』)
人間の欲望はあらゆるものを実現可能にする力を持っている。昔と同じ姿をしていても、それは必ずしも同じではない。科学の発達は人間の寿命まで奪ってしまった。こんな時代だから人間はずっと死ぬまで疲れていなくちゃいけない。
『赫い母』
つむぎ美帆
(『子育て幽霊』)
羽嶋郁美の名を見たのは、中学卒業以来、十八年ぶりのことだ。小さな町の中学校で、彼女は注目の人物だった。そして、孤独だった。彼女の母親が起こした事件は、退屈な田舎町には充分すぎる刺激を与えるスキャンダルだったのだ。
『おばあちゃんのおせち』
石川理麻
(『鶴の恩返し』)
「そういえば『もし救急車で運ばれるようなことあったら、勝負下着に着替える』って言っていたよね。救急隊員が男前かもしれないから。」祖母は口ベタで、だったけれど、誰からも好かれて頼られていた。豪快な人だった。