『泥田坊』
化野生姜
(『泥田坊』『鶴巻田』『継子と鳥』)
祟りが語り継がれる田んぼの地形調査に訪れた私が目にしたのは、調査用ソナーを泥の中に引き込んでいく三本の指。泥にまみれた三本のかぎ爪のような指だった。その日の深夜、私はざわつくような気配に目を覚ました。
『私の欲しいもの』
小嶋優美子
(『竹取物語』)
信じられないことが起こった。デートする条件に出した激レアチケットを入手してきた男が現れたのだ。姫乃はひどく驚いた。チケットがどうこうではない。その男が五十すぎで独身の、鈴木という小太りの社員だったからだ。
『三つ巴』
秋山こまき
(『こころ』夏目漱石)
ドアを開けると秋子さんが立っていた。彼女は、僕の高校時代からの親友の恋人だ。彼女と部屋で二人切りになるなんて僕にはできない。ましてや夜だ。でも、もういいのだ。垣根は消えたのも同然だ。切り札は僕が握っている。
『マンモスだったお母さんと魔法使いになりたかったお父さんと小学生のあたしの幸せな時間』
山本プーリー
(『花咲かじいさん』)
ブオーブオー!口から出てきたのは象の鳴き声だった。あたし、マンモスになっちゃったの?おそろしくて、ぞーっとなった。あたしが大昔の生き物に変身するなんて。何か悪いことをしたから?何かの罰でこうなっちゃったの?
『三人の鶴』
片瀬智子
(『鶴の恩返し』)
ある雪の夜、喫茶店で待ち合わせをしていたのは高校時代の同級生で三十代半ばの女たち。一人目は秘書、二人目はバリスタ、そして四人の子持ちである三人目。先に到着した秘書とバリスタは『鶴の恩返し』の謎かけを始める。
『ブラック企業版シンデレラ』
西島知宏
(『シンデレラ』)
むかしむかし、「シンデレラ」と呼ばれる美しい新入社員が、月間100時間以上の残業を強いられるブラック広告代理店で、意地悪な先輩社員たちとエンゲージメントを構築できずに働いていました。そんなある日…
『ふくらはぎ長者』
薪野マキノ
(『わらしべ長者』)
駅前のバスターミナルにある長いベンチの下に、ふくらはぎがひとつ落ちていた。筋肉質で少し太めの、ちょっと毛深いふくらはぎだった。くるぶしや膝をどうして失ってしまったのだろうか。 見当もつかない。
『罪深い娘と罪のない息子』
山北貴子
(『竹取物語』)
嫗の家系は男児が決まって若くして亡くなっていた。嫗の2人の兄、妹の息子、はたまた養子の男児すら15歳を待たず世を去った。翁の連れてきた赤子は男の子だった。「ならばこの子は15歳になるまで女の子として育てればいい」
ブックショートアワード2014大賞選考について
ブックショート2014 優秀作品(第1期〜第4期)全179作品が出揃いました!このなかから大賞の最終候補作品を選定し、5月12日(火)に当Webサイトにて公開します。お楽しみに!