『虫の家』
荒井始
(『変身』フランツ・カフカ)
俺は廊下の奥にもう一つ扉があることに気付いた。暗い突き当たりに浮かぶ扉。俺はふらふらと近付いた。そしてドアノブに手を掛けようとした時、突然娘がすごい勢いで割って入った。「この部屋には入ってはいけません」
『サルとカニの向日葵』
渡辺恭平
(『猿蟹合戦』)
彼女は少女の秘密の隠し場所を母親特権でこじ開けた。母親に隠し事をしようなど言語両断。恨むならこの私の腹の中で面倒な性格を選んだ自分を恨みなさい。毎度毎度のことながら、真紀の本音を知るためにはこうするしかないのだ。
『狸寝入りのいばら姫』
星見柳太
(『眠れる森の美女』)
目の前で意中の女子、茨城姫子が眠っている。彼女が気分が悪いと言い出したのが始まりで、僕と、女友達 車田さんの二人で保健室まで連れてきた。車田さんは「寝込み、襲うなよ?」という言葉を残し教室に戻る。部屋には二人。
『鶴田一家』
宮原周平
(『鶴の恩返し』)
ある日、私の娘と名乗る女から電話があった。妊娠してはいけない人の子が出来てしまい、お金が必要ということだった。私に娘はいないし、結婚したこともない。こんなとき、振り込むバカなどいるのだろうか、俺以外に。
『花簪』
神津美加
(『瓜子姫と天邪鬼』)
天邪鬼は、瓜子が大嫌いだった。しかし、瓜を拾ったお爺さん、お婆さんは、今まで子供を授からなかった為か、瓜から出てきた赤子を我が子のように育て始めた。かつてこの老夫婦に親切にしてもらった天邪鬼はそれが面白くない。
『もうひとつのアリとキリギリス』
小倉正司
(『アリとキリギリス』)
「運んだ食べものはまず女王様に食べていただき、その次に女王様が生んだ子供たち、そして女王様の側近の方が食べて、次は・・」アリは、暑さに耐えながら汗だくになって、自分の重さと同じくらいの食糧をせっせと運ぶ。
『シンデレラの父親』
日野成美
(『シンデレラ』)
シンデレラの婚礼のあと継母と継姉は都を離れ、隠れるように暮らしはじめた。人々は彼女らに罵詈雑言と石を投げつけ、財産の半分が没収された。半分で済んだのはシンデレラのとりなしがあったからと言われている。―父親は?
『桜木伐倒譚』
大宮陽一
(『ワシントンの桜』)
病気で寝込んでいる祖母のよくわからない意向で庭の桜の木は伐られ、残されたのは断面の生々しい切り株だけだ。それでも桜の咲く季節になると、花のない庭で宴会は開かれたという。睦子ばあちゃんが昔聞かせてくれたお話だ。