『タンホイ座』
佐藤奈央
(『タンホイザー』)
29歳最後の夜、背理(はいり)ヒトシは新宿・歌舞伎町の風俗店で童貞を捨てた。それは所属する劇団「タンホイ座」の掟を破る行為でもあった。劇団を追われ、失業し、さらにインポテンツになったヒトシは、魂の救済を求め、ワーグナー作のオペラ「タンホイザー」の主人公さながらに、巡礼の旅に出る。
『王子さまの手紙』
和織
(『星の王子さま』)
金の髪の少年を追って、王さまとうぬぼれ男と実業屋が、地理学者の星へ辿りつきました。地理学者のもとには王子さまからの手紙があり、そこには点燈夫を助けてあげてほしいとの言葉がありました。そこにいる誰もが、その問題の解決に協力出来そうです。
『音がきこえる』
Mac
(『トカトントン』太宰治)
あるマンションに引っ越してきた女性。実はこのマンションの近くにある工事のトカトントンという音を聞くと何事にもやる気を失ってしまうという。その話のとおり、主人公もこの音を聞いていると徐々にやる気を失っていった。しかしその音の正体とは。
『月満ちる時』
但野ひまわり
(『竹取物語』)
子供が出来ないことがきっかけで、すれ違う夫婦。そんな冷え切った二人の間に突然授けられた赤ん坊。竹から生まれたその子のおかげで温かみを取り戻したかに見えた二人だったが、女の子はいずれ故郷に戻らねばならない月の民だった。子供を失った二人は……。
『青い血、赤い鱗』
東村佳人
(『赤いろうそくと人魚』)
人魚は人に育てられた。実の母の顔も知らず、ただ育ててくれた老夫婦に恩返しのために、蝋燭に絵を描いて、幸せにしてくれたから、とその家業を助けた。しかし、いつしか彼女の頭の中で誰かが囁き始める。いつ聞いたかもわからない、誰のものかもわからない声が。ひとつ、ぬりてはおやのため――。
『双子倚子』
ナマケモノ
(江戸川乱歩『人間椅子』)
亡き皇后 定子の忘れ形見である媄子内親王がこの世を去った。悲嘆にくれる一条天皇のもとに、関白道長から不思議な倚子が届けられる。道長から送られた倚子は、陶器で作られ二人の女性が向かい合って形を作り出しているその奇妙な形をしていた。道長の文は、その奇妙な倚子の恐るべき由来を語りだす。
『桜花舞い踊る卯月、僕ラハ涅槃ニテ酩酊ス』
灰色さん
(『桜の樹の下には』梶井基次郎)
月曜日、こわれた「君」と全てを失った僕とで久々に行く花見。電車内や道先で遭遇する、奇妙な人々や光景、そして渦巻く記憶。宴の中、やがてアルコールと桜が見せる幻惑と狂気に僕はまどろんでゆく……。