閉店後、余って廃棄になるパンを一つずつもらい、客のいなくなった店内で食べる。閉店シフトの特権だ。
真里が一息ついて帽子を取ると、チョコランマを持った秋穂が寄ってきた。
そして、売り上げ金の計算を終えて戻ってきた店長に声をかける。
「店長、見てくださいよ!このパン、真里の髪と同じ色合い」
「本当だ!えっ、たまたま?いい色だねぇ」
店長に褒められ、真里は恐縮する。
今まであまり接点のなかったアルバイト仲間も、チョコランマの畑中さん、と覚えてくれた。
真里は、好きな髪色で生きる自分を肯定してもらえたような気がして、じわじわと嬉しくなった。
何日か過ぎ、さすがに黒髪の部分が広がってきたので、真里は今度こそ染め直すことにした。
名残惜しいけれど、新しい髪色との出会いに期待を膨らませながら、「カラーリング」で予約を入れる。
山崎さんに、いい報告とお礼をしよう。
美容院へ向かう真里の手では、パン屋の袋が揺れていた。