「営業できるだけいいじゃないですか。私、野坂さんのような一人前に仕事ができるような女性になりたくて頑張っているだけなのに、みんなに誤解されて居づらくて、異動するしかなくて。異動先でもまた居づらくなったらどうしたらいいの。会社を辞める勇気も転職する勇気もない。私には何もない!」
マナミの目から大粒の涙が一粒二粒とこぼれ、頬を伝った。チカがそっとハンカチを差し出す。マナミはそれを受け取る。
「野坂さんのそういうところ、気遣いとか、完璧すぎる。ずるい」
マナミがバックから手鏡を取り出して、顔をチェックしながらつぶやく、。
「佐伯さんも、十分ずるいと思いますよ」
チカからの意外な言葉にマナミは、大きな目を見開いてチカを見つめた。やっぱりチワワだ、とチカは思った。
「佐伯さんは周りに助けてもらえるじゃないですか。私は誰にも助けてもらえないから一人でやってきた。挙句の果てには、一人でやっていける女扱い。同じ女なのに、って思ってますよ」
チカはギュッと唇を固く結んだ。
「口に出せないだけで、本当は助けてもらいたいのに。佐伯さんみたいに、誰かに相談ができれば何かが違っていたのかな」
「ふふっ。野坂さん、私たち似た者同士ですね。お互いないものを欲しがっている」
チカは一瞬、元彼氏の顔を思い浮かべたが、それはすぐにマナミのいたずらっ子っぽい微笑みの中に溶けて消えた。
「私、野坂さんを見習って、人に頼りすぎないよう、少しは自分で考えて自立してみます。そして自分ができることを見付けます」
「私も佐伯さんを見習って、周りを頼ってみようかな。明日から」
「今日からにしましょう! 私、自立の一歩として、ヘアスタイルは自分で決めます。今まで美容師さんに相談し過ぎてたから」
「あ、じゃあ、私、今日は美容師さんに相談しようかな。いつもの人ではないけど。私たち、やりすぎかな?」
チカとマナミは顔を見合わせて笑った。音楽は緩やかなジャズからテンポのいいジャズに変わり、先ほどのスタッフが二人の名前を呼んだ。