月曜日、教室に入るのは怖かった。雄一郎くんには似合うと言われたけど、やっぱり怖いのは女子の反応。でも、杏菜さんが切ってくれたんだ、きっと大丈夫。
教室のドアを開けた瞬間、美涼と目が合った。私の髪形にはすぐに気がついたようで、
「舞ちゃん、髪、切っちゃったんだ」と目を見開く。でも「切っちゃった」という表現を使う辺り、原因が夢田さんにあることを察知していることがわかる。やっぱり、夢田さんの顔を思い浮かべるだけでくやしさが込み上げてくる。彼女のせいで髪を切らないといけなくなった。自慢のロングヘアーだったのに……。
「舞ちゃん、長いのもかわいかったけど、ショートもすごく似合うね」
そう言った丸眼鏡の奥の美涼の目が、きらきらと輝いている。手を握り「かわいい!」を連発しているけど、美涼にも気を遣わせてしまったかもしれない。でも、今はそんな彼女の反応が嬉しい。私のことをはげましてくれてるんだから。教室の隅でそんなやり取りをしていると、ふと机の横を通りかかった女子生徒と目が合った。
「あれ、舞ちゃん」
体育の授業ではいつも気さくにハイタッチしてくれるけど、夢田とも仲が良い女子だ。
「髪切ってる!」
普段、教室ではあまりしゃべることがない。そんな彼女が私の机にかけ寄ってきた。
「その髪形、すごい似合うね。ロングも清楚感あっていいけど、ショートだと元気に見える」
ふふっと笑った彼女につられて、私も「ありがとう」と言いながら笑みがこぼれる。だんだんと他の女子生徒も集まってきて、「舞ちゃん、イメチェンだね」「私も切りたくなってきた」と盛り上がり始めた。
自分が話題の中心にいることが恥ずかしい気持ちもあったけど、それよりも褒められて嬉しい気持ちが勝った。先週までのどんよりとした不安な気持ちがようやく払拭された。
「福岡さん」
次に声をかけてきたのは、夢田ここあだった。私の髪形を見て、呆然と突っ立っている。
「ごめんなさい、私が、ひどいこと言ったから……」
いつもはキンキンと響く大きな高い声が、今は沈んでいる。
「夢田さんの言葉で髪を切ったのは事実だけど、私、後悔してないよ。ショートヘアー、気に入ってるんだ」
杏菜さんは、魔法使いだね。杏菜さんの手が生み出す魔法は、私にこんなにも勇気をくれた。今、教室で笑えているのは、杏菜さんの魔法の力に違いない。
授業が終わったら杏菜さんの美容院に寄ってみよう。きちんとお礼が言いたい。今日の出来事を話したい。そうしたら今度は、私が杏菜さんを笑顔にできるだろうか。