「お疲れ様。今日は忙しかった?」
「うん、今日は結婚式のセットが二件入ってたから、ちょっと気を使ったかなぁ」
俺のそれに彼女はそう答えてくれて、グラスから勢いよくアイスティーを飲んだ。喉が渇いていたのだろう。オシャレなのに、豪快な飲み方である。
俺は彼女の仕事模様をあまり見たことはないが、あのとき俺のシャンプーをしてくれた手つきを思うに、かなりいい腕を持っているのだと推察していた。
結婚式に出るための髪のセットだろう。ああいう場の女性は凝ったかわいらしい髪形をしている。きっとセットするほうも大変だ。
「そっちはどうだった?」
彼女は聞き返してくれて、俺はそろそろ夏に向けた準備をしている仕事のことを話した。なんでもない内容なのに、話は弾んだ。
こういう、何気ない仕事上がりのデート。こんなことができる日が来るなど、一ヵ月前の事件のときは思いもしなかった。
その幸せな気持ちを表すように。
俺は先日、手に入れていたものを取り出した。
「今日で一ヵ月だから。記念に」
それは綺麗にラッピングしてもらったプレゼントだった。
彼女は俺の取り出した白い袋を見て、ぱっと顔を明るくしてくれた。
「えっ! もらっていいの!?」
「ああ。見てみてくれよ」
彼女は袋を受け取ってくれて、リボンをほどいて、包みを開けて……。
中から出てきたものを見て、ぷっと噴き出した。
「やだ、ウンがつきそう」
どうもすぐにわかってくれたらしい。
あのとき、俺が災難だと思ってショックを受けて、だが結果的に彼女との出会いをくれた存在。
木彫りの鳩がついた、小ぶりの髪飾りである。
「ありがとう。早速、明日、つけてみようかな」
彼女は取り出した髪飾りを持って、持ち上げた。サイドでまとめていた髪の上にそっと当ててくれる。
「どうかな?」なんて聞いてくれるその様子はとてもかわいらしくて。
俺は「すごく似合うよ」と言い、彼女はまた「フンはつかなくていいけどね」なんて、茶化して笑ってくれたのだった。