服装だって、街中でよく見るオシャレな女性といった様子だ。
明るい柄のスカートに、上はブラウス、まだ春先なのでジャケット……。
俺は質問よりも、彼女がとても綺麗であることに目を奪われてしまった。
おまけに顔立ちまでかわいらしかった。メイクもナチュラルで嫌みがないし、くりっとした目が印象的だ。
……何故、こんなかわいらしいひとが俺に。
ぼうっと思ったけれど、数秒後に、やっと、はっとした。
いや、俺を気に入ったから声をかけた、なんて理由であるものか。
階段を上がったところでぼうっと立ち尽くしていたから、怪我をしたか、体調が悪いのかと心配してくれたのだ。
一気に恥ずかしくなる。
だって間抜けすぎるだろう。
階段で鳩にフンを落とされたのも間抜けであるし、ショックを受けて突っ立っていたのもそうだ。さっさと割り切り、歩き出すべきだったのに。
情けなさすぎる。
おまけに知らないひとに心配までかけてしまった。
自分にほとほと呆れつつ、俺は「いえ……」となんとか言った。
「えっと……ちょっと、落とし物を……」
だがその言い淀んだ言葉に、彼女は眉を寄せた。違う意味で心配そうな顔になる。
「大事なものですか? 駅員さんに言えば見つかるかも……」
言われたのは優しい言葉だったが、それは誤解であった。
俺はまたしても情けなくなった。恥ずかしくて遠回しに言ってしまったために。
「い、いえ! そうではなく……」
あわあわ言った俺に、彼女は不思議そうな顔をした。
これは誤魔化せなさそうだ。
いや、ここにきて誤魔化せるはずがないし、それは彼女に失礼だ。
俺は観念して口を開いた。
「その……階段の上から降ってきてですね……」
「まったく、すごい確率ですね!」
ごぉぉ、と耳元ですごい音が響く。
その中でも、彼女がおかしそうに笑うのが聞こえた。
数十分後、俺はコンビニでも会社でもなく、何故か美容室の椅子に座っていた。
髪を洗ってもらって、さっぱりして、今は鏡の前でドライヤーをしてもらっていたところだ。
「はは……ほんとっすね……」
俺は乾いた笑いを返す。
俺の髪を乾かしてくれているのは、駅で声をかけてくれた彼女である。
情けない事情を正直に話したところ、「それは大変でしたね」と同情してくれたのだけど、そのあと数秒考えた様子で、言ってくれたのは驚くべきことだった。
「良ければ、うちの店にいらっしゃいませんか。髪、洗えますよ」
うちの店?