―私と私の髪はこれからも一緒に生きる―
薄い前髪づくりは、高橋さんの経験と技術によってあっという間に達成されてしまった。前髪はまっすぐ、針のような細さで束を作っておでこの前に落ちた。あんなに高橋さんと鏡越しで目を合わせられたのは初めてのことだ。
次の日も同じ前髪だった。夢じゃなかったんだとさらに胸が高鳴って、学校に行くときは照れくささと誇らしさで走り出したい気持ちだった。ママは、気をつけなさいよ! といつもより大声で言った。
後ろからかなちゃんが声をかけてきたから、思い切って振り返った。かなちゃんは目をまん丸くして言った。
「葵ちゃん、どうしたの?前髪きれい!」
嬉しくて、でも気恥ずかしくて、急いで事情を説明しようとした途端、かなちゃんがぽろぽろ泣き出した。
「どうしたの?」
「ごめんね。私、葵ちゃんの髪、切っちゃって。」
かなちゃんまで責任を感じてたんだ。自分のせいでおかしなことになってしまった友達に、やっぱり元の方がいいなんて言えなかったんだろう。ぽろぽろと泣く同じ前髪のかなちゃんを見て、不思議なほどあっさり、前髪へのこだわりも、かなちゃんへの劣等感も、解けてしまった。
「いいの。もうきれいになったし。それに私、これから伸ばして、もうこの前髪やめるんだ。」
とつい言ってしまった。このストレートパーマは気に入ったけど、高橋さんが私に向き合ってくれたみたいに私が自分と向き合ってみたら、もっと別にやってみたい髪型がありそうなのは本当のことだ。かなちゃんがそのことをどう思ったかわからない。でも、これから私が自分と向き合って、高橋さんと一緒に作る髪型は、かなちゃんのもやもやも吹き飛ばすほど私を輝かせるって、私は確信してる。