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『前髪は瞳の少し上で』三戸栄

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出会い

「大久保、お前今度の月曜日あいとらん?」
中卒ながら京都で修業を積み、広島に帰って自分の店を持った同級生の梶原健司が言った。
和食店を営む梶原の店は、老舗で修業を積んだだけはあって、本格的な料理を気さくな雰囲気で出す。
なおかつ値段がリーズナブルなのでいつも予約が取りにくい。
それに中心地の飲食店にしては珍しく日曜日も営業し、代わりに月曜日を定休日にしている。
そんなこともあって月曜日定休がほとんどの美容師が集まりやすく、ちょっとした情報交換の場にもなっていた。
「特に何もないけど、何するの?」
「この間の災害、全国からボランティアが来とって、土砂はこんだり、家の片づけしたりしよるじゃろ、地元の俺らがなんもせんでええんか?」
この年の8月、西日本を襲った災害は、数百年に一回と言われる記録的な集中豪雨であり、各地で甚大な被害をもたらした。
未明に起こった大規模な土石流は新興住宅を飲み込み、死者、行方不明者を多数出し、災害発生から1か月が過ぎようとしている今も、自衛隊を含め多くのボランティアによる作業が続いている。
「いいけどスコップとか長靴とか手袋とか、いろいろ揃えんといけんのやろ?」
「ちがうちがう、俺料理人じゃけぇ、おむすびとか簡単なおかずとか作って持っていこーおもーとるんじゃ」
「そーか。それなら俺にも手伝えるわ」
「お前は美容師じゃけ、ハサミもっていきゃぁええんじゃ」
災害ボランティアでカットをするイメージが全くなかった大久保は、そんな大変なところに行って、カットなんかしてほしい人がいるんだろうかと疑問に思ったが、たとえいなくても梶原を手伝えばいいかと、適当に行く返事をした。

「よしっ!これで荷物は全部積んだと。大久保、忘れもんないか?」
月曜日の早朝、ワンボックスにテントやテーブル、おむすびと数種類のおかずを詰め込んで梶原が聞いてくる。
「まぁ俺ははさみとクロスとタオルくらいだからこれだけ」
大久保はリュックに詰めた荷物を差し出す。
あまり活躍することもないだろうなと、大久保は梶原のテンションがうらやましくもあった。
「お前は腕だけあればええんよな。まぁ心配するな、俺が人集めちゃるけぇ」
梶原は意気揚々と車を発進させた。

現地に到着してボランティアの受付を済ますと、少し小高い広場に案内された。
「ここでお願いします。まぁこんな有様なんで猫の手も借りたいぐらいですわ。おむすびもありがたいです。近くのコンビニも被災してて、みんな自前で用意してきてるくらいですから」
担当者の説明を聞きながら大久保は被災現場から目が離せなかった。
人の何倍もある岩があちこちに転がっていて、数えきれない数の車がおもちゃのようにつぶされたりひっくり返ったりしている。
スキー場の斜面のように積もった土砂のある所にはかつて無数の家が立ち並び、人々の生活が営まれていたのだろう、今も行方不明者がこの土砂のどこかに埋まっている。
ここに住んでいた方なのか、親族の方なのか、手には汚れたぬいぐるみとか、アルバムとか抱えて、瓦礫の中を歩いている。

(これはただ事ではないぞ。中途半端な気持ちではかえって迷惑だ)
そう感じた大久保は、身を引き締めてテントの設営にとりかかった。

「ありがとうね。助かるわ」
「兄ちゃん若いのにえらいのぅ。落ち着いたら店にもいくけぇ」
お昼前になると作業を中断した人たちが、少しずつテントにやってくるようになった。
「ご苦労様です。おむすびくらいしかないですがどうぞ食べてください。あとこいつ美容師なんで、髪切りたい人がいたら切りに来てください」

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