美月は見目のかわいい料理が出来上がっていく様子やネイルが完成されていく過程を映した動画を見るのが好きだ。
だから今も鏡に釘付けだ。美月のかたくて太い髪の毛がコテで巻かれて編み込みやお団子を経てセットされていく。美月はくるりんぱさえできないのに。
「うわあ……わたしの髪でもこんなになるんだ。すごいですね」
「これからまだ変わってくよ」
鏡越しに理恵さんが微笑む。小学校六年生から美月の担当をしてくれている美容師さんである。
「でもここからまだ迷ってるんだよね。昨日決心したんだけどな。やっぱりいざ見ると悩む」
うーん、とうなる理恵さんに美月はつい笑ってしまった。自分が思っている以上に理恵さんはたくさんの案を考えてくれたらしい。
「理恵さんが仕上げてくれたのならなんでもいいですよ」
「いやいや、大事な成人式だし。ま、これから着付けもあるんだし迷ってなんかいられないね」
よし、と言って理恵さんは作業を再開する。
「やっぱり昨日決めたのよりもうちょっと大人っぽくすることにした」
「大人っぽく? 似合うかなー」
「ちょっとくらいの背伸びがちょうどいいんだって」
ちょっとくらいの背伸び。
美月の頭の中に中学生だった頃の記憶がよみがえる。だけどあれは背伸びなんかではなかった。もっと攻撃的な意味合いをもったもの。
鼻歌でも歌いだしそうな理恵さんを見て美月の胸がちくりと痛む。あのとき理恵さんはどんな思いだったのだろうか。
ドラッグストアに並ぶお目当てのものを見て、その種類の多さに美月は驚いた。普段は通り過ぎているコーナーだったので、こんなにもまじまじと見たのは初めてだ。
本当はもっと迷っていたかったがなんとなく周りの視線が気になり急いで選ぶ。
ドキドキしながらレジへと持っていったが、店員さんは特に気にすることもなく淡々と処理をした。店を出てから、こんな弱気でどうするんだと自分に喝をいれる。
「いらっしゃいませ。あ、美月ちゃん」
美容室のドアを開くと、ちりんと鈴の音が鳴ってそれと同時に理恵さんが美月を迎え入れてくれた。
美月がこの美容室に通い始めてから今年で三年目。理恵さんは最初に自己紹介をしたときに「二十代半ばだよ」なんて言っていたので今は後半くらいであろうか。学生といっても通じるくらい明るくて若々しい人である。
「よろしくお願いします」
「はーい。今日はいつも通りカットだよね」
美月は一瞬身体をこわばらせ、バックに入れた先ほど買ったものを握りしめる。
「あ、あの、えっと」