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『春を纏って』藤崎瑛太

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「遠かったですよね」
「一人でこんなに遠出したの初めてで」
「私も四国の方から上京してきたので、太田さんを見ていると上京したての頃を思い出します。なにかあればご連絡ください」
「ありがとうございます」
「書類をお渡しするので少々お待ちください」
 新井さんは一旦席を立った。去っていく後ろ姿を見て、入店してからずっと気になっていた事を確信した。
 会ってまだ二度目だから口に出すべきか迷っていたけれど、彼女には聞いていい気がする。
「お待たせしました」
 戻ってきた彼女が書類の説明、鍵を紛失した場合の連絡先を話し終えるのを待った。
「以上になりますが、なにかご質問はありますか?」
 質問はあります。
「髪切られました?…先週より短くなっているような気がして」
 そんな質問じゃないですよね。東京に来て、誰かと話をしたかっただけなんです。心の中でそっと呟く。
「わかりました!一昨日切ったんですよ」
 抵抗を表すことなく答えてくれた彼女は自分の髪を優しく撫でた。
「凄く似合ってます」
「ありがとうございます。もうすぐ春なんで、春っぽくしました」
 彼女の友達に話すような口調が、張りつめていた心をさすってくれた。
「たしかに春っぽいです」」
「駅前の美容院で友達が働いてて。あ、引っ越ししたばかりで美容院探すようなことがあれば是非そこで」
「はい、ありがとうざいます」

 まだ一度しか行ったことのない家に迷わずたどり着くか不安で、スマホの地図を見て自分の家を探すのはふと滑稽に思える。慌ただしく歩くスーツ姿の人や派手な色の髪色をした同世代の女性、空に届きそうな高いビル、忙しなく走る車の群れ。心がまだ落ち着かない。
 ようやく先週見た記憶のあるアパートが現れてほっとする。アパートの階段を上り、二階の角部屋の扉の前に立った。新井さんからもらった鍵で扉の鍵を開ける。扉を開けて中に入るとき、「ただいま」なのか「おじゃまします」なのか迷って結局
「お願いします」
小さな声で呟いた。

 瞼に陽を感じて目を覚ます。実家から送った荷物の荷ほどきがようやくひと段落ついた部屋には段ボールが溢れていた。
 入学まで特にすることも会いたい友達もこの街にはいないけれど、このまま布団の中にいるのももったいない気がして立ち上がる。顔を洗って鏡を見る。寝起きの胸の位置まである乱れた髪が気になった。高校の頃は陸上にをしていたこともあっていつも結んでいた髪。
 もうすぐ私も大学生になる。もうすぐ春が来る。

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