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『左手婆ちゃんと魔法の杖』秋之ノリ

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 隆史は意外な表情をしたが、聞いてくれるならと話を続けた。妻の表情が恋人のときにお互いの事を探り合うように知ろうとした、そんな懐かしい感じもして、話す気が湧いた夫だった。

「ああ、それでさ、意外に盛り上がってるから隣の商店街町内会も合唱団を作ったりして、街に小さな合唱団ブームがおこったんだよ。そのうち三つの町内会合同で発表会することになったんだ。どうせなら人も多いところでってなって、会場がコノ屋上に決まって。それからはお祭りみたいになって大変でさ。練習とか、衣装作りとか、ビラ配りとか、初めてだからもう色々あって。ウチの家がそのリーダーみたいな婆ちゃん家の隣だったから、家族全員参加させられて、色々と手伝わされたんだよな」

「ふーん、妹の彩さんも?」

「ああ、あの今では唯我独尊を地で行く彩もだ。というか、彩は小学生なのに伴奏者に抜擢されて結構楽しんでたよ。俺は始めはイヤイヤだったけどな。だって面倒くさいだろ、ご近所さんで一緒って」

 妻が笑っているものだから、面倒くさいというわりに自分がウキウキするような口調で話していたことに気がついて少し照れた隆史である。彼は妻から観覧車の立つ屋上に視線を移して話を続けるのだった。そんな夫を見つめながら妻がつぶやく。

「屋上ばかり見つめちゃって、変な人」

◇◆◇◆

 僕は家族と一緒に町内の自治会館に来ていた。合唱団の一員でもある僕ら家族は来週の発表会に向けて課題曲を練習しているのだ。歌うために息を吸うと、古い木と湿気とワックスが混ざった匂いが鼻から入ってくる。意外と好きな匂いだ。

 二十四人を前に小柄な婆さんが立っていて、左手で指揮棒を振っている。婆さんの姿勢は年齢の割にしっかりと真っ直ぐに伸ばされていて、小柄の割に威厳ある立ち姿である。合唱団のリーダーが、この浅野さんである。顔の彫りが深くて、鼻が高くて、外人の血が混じってるのかなって思える。一度、杖をついて歩いているとこを見たけど、その時は本物の魔女か魔法使いにも見えて怖かった。後で思うと魔法を使えたのかもと思ったりする。

 トントントン。木の机と木の棒が激しくぶつかる音が自治会館のホールに響いていた。

 婆さんが何か言いたい時の合図だ。牧羊犬に統率された羊のように顔を揃えて皆が婆さんを見た。

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