水曜日、何をするでもなくただボーッと過ごしていた。自分は彼女の脚を見たことを黙っていた。だが本当に彼女を信じたのではなく、ただ信じたかっただけなのだ。結果的にそれで良かったが、疑いの気持ちが全くなかったわけではない。それを恥じた。そして根拠のないことを漠然と信じるという、主体性のない自分を恥じてもいた。
カウベルが鳴った。入り口を見ると彼女が立っていた。
「お休みなのは分かっていたのですが」
どうしてもここの珈琲が飲みたくて、と小さく微笑んだ。それから「ありがとうございます」と言った。俺は「え?」と返した。
彼女はあの日、この店から明かりが漏れていたのに気づいていた。店内に明かりを取り込むための窓は、外が暗いうちは、逆に店内の明かりは外にもれるのだという。
少なくても彼女を不利な立場に追い込む証言を俺がしなかったことを、彼女は知っていた。
俺はホッピーの入ったグラスを持ち上げた。
「珈琲は後で。今は一緒に飲みませんか?」
彼女は少し微笑み「そうですね」と言った。