「そうだ。ひとつ伝えておこうと思ってたんだ」とぼくはいった。「ぼくは煙草をやめることにしたよ」
ココちゃんがテーブルの上の灰皿を指さして笑う。煙草が溢れかえっている。
「これは昨日までのぶんだよ。今日から禁煙開始したんだ。でも完全にやめるのはすぐには無理かもしれない。スパッとやめられたら一番いいんだけどなんせけっこう長い習慣だからね。でもがんばっていつかやめる」
「どうしたの急に?」
「ココちゃんのこと大好きだからさ」
「へえ」
「心底愛してるんだ」
「ほんとかな」
「ほんとだよ。だからいつかぼくが完全に煙草断ちに成功して完全に超健康体の長生きすること間違いなしな男になったらその時はココちゃんぼくと結婚してくれる? しんどいこととかめんどくさいこととか憂鬱なことだらけの人生もふたりいっしょならきっと愉快に乗りきれるよ」
「そうかな?」
「そうだよ」
「ぜったい?」
「ぜったい」
「じゃあいいよ」といって彼女は笑った。「いつかその日がきたら結婚してあげる。約束ね」
「約束だ」
ぼくたちは指切りした。婚約成立。ケセラセラ。ケセラセラったらケセラセラ。なるようになれよマイ人生。
オセロのあとはチェスをした。そのあとはババ抜き。そのあとはスゴロク。夕食はふたりでキムチ鍋を作って食べた。
眠りについたのは二十二時。同じベッドの中でぼくたちは抱き合って眠った。
土曜日と日曜日もココちゃんといっしょに過ごした。
土曜日は僕の実家で家族と昼食を共にした。シズクの手作りカレーだった。
「おいしいよ」とぼくがいうとシズクは頬を赤く染めて「じつは隠し味にイチゴジャムを入れたの!」と教えてくれた。
「いちごジャムカレーなんて天才過ぎ!」とココちゃんが褒めるとシズクはさらに頬を真っ赤に染めておほほほほ。いつまでもいつまでも口に手をあてて上品におほほほほほほほほほほほほだった。
父さんと母さんはなにやらケンカ中のようで食事のあいだふたりともずっとブスッと黙りこくっていた。だけどふたりは愛しあっているのだ。やたらと物をなくすクセがある母さんのために父さんはこれまでに合計で十回以上は結婚指輪を買いなおしている。母さんも母さんでいつも父さんに毒づいてばかりいるけどその毒づきだって「野菜もちゃんと食べてよ! 不健康でしょ!」とか「裸でウロウロしないでよ! 風邪ひくでしょ!」とかそんなのばかりなのだ。
帰りには三人で駅まで見送りに来てくれた。改札の前で「じゃあまたね」のついでにぼくはみんなにいった。
「そうそう。ココちゃんと結婚しようと思うんだ。いつかぼくが禁煙に成功したらね」
父さんも母さんも面食らっているようだった。シズクだけはすんなり受けいれて祝福してくれた。
「すごいじゃん! お兄ちゃんおめでとう! ココちゃんも!」