おじいちゃんと一緒に稲の苗に水を撒いていたあの頃から20年が経ち、うちはもう稲作をしていない。買ったほうが安いのだそうだ。それにもう稲作をする人手がいない。しかし、嬉しいことに、数年前からうちの田んぼを小学生が稲作体験に使っているのである。私たち兄妹と父が通った小学校の後輩たちが、5月に田植え、10月には稲刈りの体験を通して、普段食べている米がどのようにできるのかを学んでいる。ぞろぞろ小学校から歩いてやってくる小学5年生たちに、苗の植え方を父が説明してみせる。人前で話すことが得意で、冗談も言う父は小学生の人気者である。
「おじさん、トイレ借りてもいいですか」
「おお行ってこい!もらすなよ!」
「わはははは」
目を閉じて、幼少時代のことを想う。苗やビニールハウス、炊き込みご飯やけもの道のにおいが蘇る。
夏、いまも変わらずかえるの合唱が聞こえる。その歌声は、私のこころを穏やかにするが、それと同時に私に涙をも流させる。