彼は恐らく一緒に二次会に行くであろう集団の方を振り向きながら言った。
「すみません、せっかく誘ってくれたのに」
軽く頭を下げる。
「いや、いいよいいよ。したら、また機会があったら」
「おーい、ぼちぼち行こうぜ」
待っていた他の社員に呼ばれ、彼は私に向かって、「じゃあ」と片手を挙げて去っていった。
嘘をついてしまった。本当はただ何となく、何となく行く気になれなかっただけだ。予定なんてなかった。でも。
「帰りたくはないんだよなぁ」
口に出ていた。
とぼとぼと一人駅に向かって歩く。道すがら、二次会に誘ってくれた彼の名前を、私は覚えていないことに気づいた。街の光は明るく、その中で私だけが独りぼっちな気がした。
不意に、トンッと後ろから軽く肩を叩かれた。何事かと思い、振り向く。
「お疲れさん」
「梨花!」
振り向くとそこにはいたずらっぽく笑う梨花がいた。・・・正直、不審者かと思い内心ビクビクしていた。
「びっくりしたー。やめてよ、普通に怖い人かと思ったじゃん」
「ごめんごめん」
言葉では謝っているが、顔から笑みが消えていない。
「二次会、行かなかったの?」
「あ、見てたの?」
どうやら店前でのやり取りを見られていたらしい。
「たまたまね。もう帰るの?」
「あ・・・うーん」
「・・・ん?どうした?」
先ほどの嘘の罪悪感が、私を口ごもらせた。
梨花が私の顔を覗き込む。間近で見ると恐ろしいぐらい整ってるな・・・。こんな美人にいまだに彼氏がいないというのだから、世の中は何か間違っているのではないかと思う。
「ちょっと、帰りたい気分じゃないんだよね。みんなで二次会っていうのも、なんか違うなって思ったけど」
私は素直に自分の気持ちを言った。梨花は「んー」としばらく思案して、
「じゃあさ、今からうちで飲み直さない?」
と私に言った。
「・・・良いの?」
「良いよ良いよー。私も飲み足りなくってさ」
「あー、後半ずーっと絡まれてたもんね」
同情の視線を送ると「そうなのー」と梨花が不満そうな顔を返す。
「ね、だから、晩酌付き合ってよ」
「もちろん」