「ホッピーは体に優しいから、いつまでも健康でバリバリ働いて、お金稼いじゃうぞー」
と言えば、
「いいけど、せめて保険金超えてよね。じゃなかったら、保険金降りるほうで頑張って」
と、しおり。黙る明彦。
「しおりも大人になったら、パパとホッピー飲もうな」
と言えば、
「そのときまであんたが生きてたらね」
と、しおり。黙る明彦。
まあ、口をきいてくれるだけマシかな。と、無理やり自分を慰める。焦りは禁物だ。それでも酔いがまわると、弱気になる。明彦は寝室のクローゼットからある物を持ってきた。悲しい晩酌に付き合ってくれている智子が「何それ?」と聞くと、明彦は明るい表情を少し取り戻した。
「これは、しおりが今までくれた誕生日プレゼント」
「あー。そっか、もうすぐ誕生日だったね」
明彦はホッピーを飲みながら、ひとつひとつ味わうように眺めた。智子も楽しそうに見入っている。
「懐かしいね」
「うわー、これ何年前だ?」
二人で我が子の思い出に浸る。似顔絵が多い。だんだん上手になっているのが面白かった。肩たたき券も出てきた。一度も使った形跡がない。
「今度使ってみたら?」
明彦はかぶりを振った。おととしにもらった手紙を最後に、プレゼントは途絶えていた。その手紙を明彦は読もうとして、やっぱりやめた。
「読まないの?」
「うん。なんか、傷つきそうで」
「なんで傷つくのよ」
智子が優しい失笑をする。年のせいか、手紙の内容はちゃんと覚えていない。だが、いい言葉が並べられているに決まっている。なんせ、しおりが素直だった頃の、パパのことが大好きだった時の手紙だ。智子がそのまま明彦から手紙を奪い取った。
「音読しようか?」
「いい、いい。やめて」
智子は素直に黙って読み始める。
「ふーん。なるほどね」
そう言って手紙を閉じた。
「パパと娘っていいね。私、パパになってみたいわ。こんなこと言われたい」
「俺だって智子が羨ましいよ。しおりと仲良いんだもん」
「あの子も、もう高校生になるんだねえ」
「あっという間に大人だな」
「ね。で、いつかお嫁に行っちゃうんだろうね」